イタリアでは原告勝訴の判決
このケースは、戦時中にドイツに捕らえられて強制労働させられたとするイタリア人が、1998年、イタリアの裁判所にドイツを相手に損害賠償を求め提訴した裁判で、ドイツは「主権免除」の立場をとり裁判却下を求めた。しかし、イタリアで行われていた裁判は二転三転しながらも、イタリア最高裁判所で原告勝訴の判決が確定。ドイツは2008年、「この判決は国際法上の義務に違反している」としてICJに提訴し、2012年、ドイツの訴えが認容された。
しかし、その2年後の2014年、イタリアの憲法裁判所は、イタリアの憲法による補償されている裁判の権利を侵害しているとして、ICJの判決を違憲とし、これは「被害者を救済した判決」(国際法専門家)とされ、「ドイツは原則的には国際法により勝訴しましたが、イタリアの憲法裁判所の判決のほうが国際的には注目を集めた」(檀国大学オ・スンジン教授)という。
今回の裁判では、ドイツとイタリアの裁判でICJが判決を下す際に出た反対意見を参考にしたと思われる。
また、判決は、1965年の「日韓請求権協定」や2015年の「日韓慰安婦合意」で原告の損害賠償請求権は、「適用対象には含まれず、消滅したとはいえない」としている。
韓国政府が批判される可能性も
日本政府がICJへ提訴を検討中というニュースは韓国でも報じられた。ICJへの提訴には両国の合意が必要とされる。徴用工裁判で日本が韓国に第三国による仲裁委員会の設置(1965年日韓請求権協定による)を求めた際、韓国側は応じなかった。しかし、「今回は相手が企業ではなく日本という国だから、韓国は無視できないのではないか」と前出記者は言う。
もし、韓国が合意しない場合は、「執行へと進むことになるが、バイデン米次期大統領が中国や北朝鮮を牽制して韓日の仲裁に動く可能性は高い。そうなるとブレーンに親日が多いといわれる次期バイデン政権から、『韓日慰安婦合意』を事実上破棄した韓国政府がその代替案を提示せず放置してきたことが批判される可能性もあり、韓国としても頭が痛い」(前出記者)。
韓国国内でも、2015年の「日韓慰安婦合意」を2019年事実上破棄したことに対し、韓国政府が代替措置をとらずに放置してきたという批判の声がでている。韓国政府は判決後「司法の判断を尊重する」としながらも、「2015年の韓日慰安婦合意は両国政府の公式合意という点を想起する」と発表し、こちらも玉虫色の声明だと非難の矛先となっている。
執行対象については、韓国が解散した「和解・癒やし財団」に日本政府が拠出した残金を活用し、それに日本企業からの基金を合わせて信託金とする「日帝強制動員および慰安婦被害者人権財団」を設立して解決すべきという声も出て来ている。信託金を賠償金とするという趣旨で、昨年8月に韓国国会に発議されている。
一方で、日本政府を相手にした裁判で原告が勝訴したことから、この裁判の行方を見守ってきた旧日本軍所属の元軍人らが日本を相手に提訴する可能性も取り沙汰され始めている。