最終戦が出発点になった
セレモニー後、私はひとり監督室に戻っていた。
まだ気持ちは呆然として、頭の中は真っ白だった。全身がしびれたようになっていて、何も感じることができなかった。
「ああ、勝てなかった……」
頭の中はそのことばかりがこだましていた。まだ敗戦を受け入れられず、現実そのものから遊離したような状態だった。
そんなとき、監督室のドアが開いた。突然誰かが入ってきた。
「監督、すいませんでした!」
入ってきたのはトレーニングコーチの根本淳平(現ロッテ・トレーニングコーチ)だった。淳平はボロボロ涙を流していた。淳平の涙を見た瞬間、私の目からも涙がこぼれた。急に現実が戻ってきて、感情が溢れ出したような感覚だった。
「監督、申し訳ありませんでした!」
また別の男が監督室に飛び込んできた。今度はトレーナーの松原慶直だった。松原もまた泣いていた。さらに、
「すいませんでした、監督!」
ピッチングコーチの畝龍実も入ってきた。私は3人に対し、
「とんでもない、俺の力不足で申し訳なかった!」
と叫んでいた。本当はその後「謝るのは俺の方だ……」と続けたはずだが、それが声になったかどうかはわからない。私はすっかり緊張の糸が切れてしまっていた。
蛍光灯が煌々と灯る無機質な監督室で、大の大人たちが涙を流していた。さまざまな感情が暴れるまま、ボロボロ大泣きしていた。私たちは悔しくて、情けなくて、申し訳なくて、腹立たしくて、そんなすべてが言葉にならず、ただオイオイと声を漏らすばかりだった。
自らの無力さに涙を流すだけ
あのとき、私たちは確かにドン底を見たのだった。これ以上ないほどの無様な負け様。私たちは自らの無力さを眼前に突き付けられ、涙を流すことしかできなかった。
ただ、それと同時に私は不思議な安堵感に包まれていた。シーズン後半、私は監督という立場ゆえの孤独を感じていた。「結局俺はひとりで戦っているんじゃないのか?」という想いに苛まれていた。
しかし試合後の監督室では私と共に3人の男が泣いてくれていた。私は、
「みんな必死で戦ってきたんだ。みんな監督である私を支えてくれていたんだ」
ということを肌で感じた。私はずっと自分は孤独だと思ってきたが、本当は一人ではなかったのだ。
それが私たちの出発点となった。
ここからはじめなければいけない。この屈辱から、もう一度立ち上がらなければならない──。
2015年の最終戦がなければ、それ以降の私はなかったことだろう。もしかして、それ以降のカープもなかったかもしれない。
何度も書く。
私のすべては、ここで生まれ、ここからはじまったのである。