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ロッキード事件「5億円は本当に田中角栄に渡ったのか」 弁護士と元検事が抱いた“違和感”とは

『ロッキード』より#2

2021/01/14

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 歴史, 政治, 読書

note

「総理大臣の職務権限自体が曖昧で、しかも、総理といえども好き勝手に判断したり行動できないよう、総理の決断については閣議決定を義務づけている。ところが、角栄が罪を問われた丸紅ルートについて、『全日空には、ロッキード社のトライスターを買わせる』という閣議決定は、存在しない。だから、職務権限なんてないだろうという議論が起きるのは、当然の流れでしょう」

 拍子抜けするぐらい、宗像は私の違和感を肯定した。

新機種導入に当たっての許認可

 ところが、民間航空機の機種選定に政府が関われるのか、という疑問から出発して考えると、別の結論に至ると、宗像は言う。

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 民間航空会社が新機種を導入するにあたっては、安全性や経済性、さらには当時問題視されていた離着陸時の騒音などについて、購入前に、政府の審査が必要であるという法的な縛りがあるからだ。

 航空会社が新しい機種を採用する場合は、航空法の「定期運航事業者の事業計画変更」(航空法100条など)に該当する。そして、定期運航事業者の事業計画は免許制で、運輸(現・国土交通)大臣の許認可が必要だ。

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 つまり、運輸大臣には、民間航空会社の新機種選定の際に指導する職務権限はあったと考えられる。とはいえ、具体的に機種まで押しつけられるのかとなると、疑問である。

 それに、運輸大臣は閣僚の1人であるから、権限を行使するとしても、内閣の意志に反する判断はできない。

「しっかりと指導監督せよ」と運輸大臣に命じられるのは、総理大臣ただ1人だ。運輸大臣が総理の意向に背くようなら、彼を罷免する権利を総理は有している。これらは、憲法や内閣法で規定されている。

総理介入についての解釈

 宗像が続ける。

「本来運輸大臣が行うべき職務権限を総理が行使することが違法であるという規定はありません。そして、総理は憲法(72条)と内閣法(6条)で、内閣を代表し、閣議にかけて決定した方針に基づいて行政各部の長たる各大臣を指揮監督する権限を付与されているから、総理が直接全日空に口利きするのは、職務権限の行使であるわけです」

 分かりやすく言えば、総理は大臣を束ねるボスだから、各大臣には総理の意向を強要できるし、また大臣の権限についても総理が行使するのは、当然の職務権限だろうという理屈になる。