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角栄の死で最高裁は判断回避

 控訴審が始まる半年前の85年2月に脳梗塞で倒れた角栄は、その後、弁護団にさえ会えない状態が続く。

 そして、上告審が審議中の1993(平成5)年12月16日、角栄はこの世を去った。

 被告が亡くなって、罪を問う存在がいなくなったために、最高裁は角栄の公訴を棄却、最高裁は95年2月22日の丸紅ルートの判決で、総理の職務権限について、従来とは異なる判断を示した。

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 すなわち、「(運輸大臣の職務権限について)民間航空会社が運航する航空路線に就航させるべき航空機の機種選定は、本来民間航空会社がその責任と判断において行うべき事柄であり、運輸大臣が民間航空会社に対し、特定機種の選定購入を勧奨することができるという明文の根拠規定は存在しない」とした。

©文藝春秋

 その一方で、運輸大臣は行政指導する権利を有する立場にあり、機種選定に干渉できるという矛盾する判断を下した。

 そして、角栄が機種選定を全日空に働きかけた行為については「判断は示さないこととする」とした。

 稲見は言う。

「田中先生が亡くなって、総理の犯罪を立証する必要がなくなった。それによって贈賄側(=丸紅)が請託の意を持って田中先生にカネを渡したことだけを立証すれば、贈賄罪が成立するため、職務権限については曖昧でも問題がなかったんです」

 最高裁が、総理大臣の職務権限についての判断を示さなかったのは、それが判例として、将来に影響を与えるのを避けたかったからだろうと稲見。

「だとしたら、何のためにあんな長い年月闘ってきたのでしょうか」

 その時の怒りを思い出したように、その一言だけ稲見の語気が乱れた。

5億円は本当に田中角栄に渡ったのか

 公訴棄却となったが、実際に丸紅から5億円の現金を受け取ったとされる総理秘書官、榎本敏夫の罪(外為法違反)が95年2月に最高裁で確定した。角栄の死で公訴は棄却されたとはいえ、裁判所は角栄が5億円を賄賂として受領したと認定したわけである。

©文藝春秋

 最高裁の後始末を見ていると、どう考えても、総理に職務権限があったと判断するには無理がある。角栄が裁判中に亡くなるという不運によって、この決定が、判例として現在も残っているのは、理不尽としか言いようがない。

 宗像と稲見からは、同じ問題提起があった。

「職務権限の問題も重要だが、それ以上に、ロッキード事件丸紅ルートを検証する上で最も重要なことは、5億円が本当に田中角栄に渡ったのかという点だ」

 殺人事件が起きたと言われて現場にかけつけたら、死体がなかった。これでは殺人事件は成立しにくい。

 奇しくも2人の証言者は、この同じたとえを用いて、その違和感を説明した。

ロッキード

真山 仁

文藝春秋

2021年1月13日 発売