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2021/01/14

source : 週刊文春出版部

genre : ニュース, 歴史, 政治, 読書

検察の主張は無茶苦茶な話

「共産党にとって、田中先生は敵です。私は親友である保岡の頼みで、田中先生の弁護団のお手伝いを始めたのですが、所属事務所には内緒でした。結局それが発覚して、事務所を辞めざるを得なくなったのですが」

 そう笑って話すが、若手の弁護士にとって、両方の間に立つ苦悩は並大抵のものではなかったろう。

 稲見は職務権限について、「検察の主張は、私からすれば無茶苦茶な話で、総理は閣僚全ての職務権限を持つというような論理が通るのなら、総理大臣は独裁しても良いと、裁判所がお墨付きを与えるようなものです」と言っている。

「閣議決定と了解は同義であるという以外に、検察は、2つの答弁書を引っ張り出してきて、それによって閣議決定と考えるとも主張しました」

 答弁書とは、国会で議員からの質問を受けて、総理を含む大臣が答える際に用意される文書のことだ。通常は、官僚が用意し、それを大臣が確認後に閣議にかけて決定するという流れになっている。

 といっても実際に各答弁書の内容を細かくチェックする大臣など皆無で、ただ回覧して署名捺印をする儀礼的なものになっている。

©文藝春秋

「検察が見つけてきた答弁書の1つは、大型旅客機導入に関する政府の方針について、野党議員が具体的な機種を問うたものです。それに対して運輸大臣はDC−10、トライスター、ボーイング747SRの3機種を想定していると答えています。もう1つは、田中先生の総理就任を受けて、ハワイで行われた日米首脳会談で、アメリカの要請に応える形で、大型機の緊急輸入を認めたものでした」

 この2つの答弁によって、検察は、総理にはトライスターを選定するように全日空に働きかける職務権限が成立したと主張した。

「こんなバカげた話が通るはずがない。どちらも、あまりにも拡大解釈が過ぎます。我々はそう信じて、田中先生が、全日空にトライスターを選定させたという閣議決定がない以上、職務権限など存在しなかったと訴え続けました」

 果たして、結果はどうなったか。

 1審、控訴審ともに、裁判所は検察側の主張を全面的に認めたのだ。