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「両手を切り落としてください」

「いまでも父を思い出すことがあります。先日、鉢植えのものに、きれいな花が咲いていました。ああ、お父さんが大切にしていたから咲いたんだと……」

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 事件からは2年近くが経とうとしていた。そのいま、何かお父さんに報告したいことはありますか、と尋ねられて彼女は「あります」と言った。

「結婚することになりました。今年の7月です」

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 そこから、感極まったように、声を震わせながら言った。

「目の前できちんと挨拶をして、お父さんお世話になりましたと言いたかったし……、私の花嫁衣装を見て欲しかった……」

 その感情の揺れは、目の前にいる被告人への遺恨となって厳しさを増す。

「ただ、死刑にするだけなんて、私、考えられない。サリンを作ったその両手を切り落としてください。その上で生きてみてください。

 人の手は、本当は人を救うためにあるんでしょ。なんで人を殺すために使ったんですか!   その手を切り落としてください!」

 その言葉に、土谷は再び首を振り、弁護人は立ち上がって反対尋問の意思のないことを告げた。

私が見た21の死刑判決 (文春新書)

青沼 陽一郎

文藝春秋

2009年7月20日 発売