宇宙ヨット「イカロス」の技術
およそ15年前の2005年11月、初号機は人類初となる小惑星イトカワでのタッチダウン、サンプル採取に挑んでいた。管制室ではプロジェクトマネージャの川口淳一郎さんら先輩世代たちが運用を担っていたが、管制室の隣室には若い世代の宇宙工学者たちがデータ解析などの作業をしている姿があった。当時私が撮影した写真には「はやぶさ2」の2代目プロジェクトマネージャの吉川真さん(後、「はやぶさ2」のミッションマネージャという大黒柱を担当)らとともに津田雄一さんの姿が写っていた。
川口さんは、小惑星探査というきわめて難しいプロジェクトは、「その貴重な経験が途絶えないうちに、次のプロジェクトに継承しなくてはいけない」と言い続けていたが、初号機の経験が次世代に引き継がれたことをこの写真は物語っている。
その後も津田さんには何度も話を聞いてきたが、印象に残っているのが、宇宙ヨット「イカロス」の技術だった。
巨大な帆をどう折り畳んだのか?
「イカロス」は「はやぶさ」初号機が地球帰還する直前の2010年5月21日、金星探査機「あかつき」とともに打ち上げられた「小型ソーラー電力セイル実証機」だ。打ち上げ後、宇宙空間で14m四方の正方形という大きな「帆」を広げて航行する宇宙ヨットだ。帆には太陽からの光の粒子が衝突する。そのごくごくわずかな力を帆で受けて推進するという世界初の実証試験を行ったのが「イカロス」だった(「帆」の一部には薄膜の太陽光パネルも貼り付けてありイオンエンジンの動力源になっているが)。
「イカロス」は、米国のように1000億円以上を投じる巨大探査機の実現が難しい日本ならではの、究極の低コスト省エネ探査機の実証ミッションだった。その打ち上げで最も心配されたのが、帆を宇宙空間で確実に広げられるか、だった。なにしろ一戸建て住宅に匹敵する巨大な帆だ(60.5坪相当)。その技術を宇宙科学研究所のチームリーダー、森治さんらに聞いたのだが、その席にいた津田さんが「帆をどのように折り畳んだか」を詳しく話してくれたのだ。
その折り方は複雑だが見事な方法だった。そして折り畳んだ帆を「イカロス」に巻き付けて打ち上げるのだと言うのだ。
宇宙科学研究所では、1970年に三浦公亮さん(後に東大名誉教授)が宇宙空間で太陽光電池パネルを展開する秀逸な折り方を開発、「ミウラ折り」と呼ばれてきた。これは、コンパクトサイズのものが瞬時に広げられる地図として普及している。津田さんの「帆」の折り方はそれに匹敵する創案だと感銘を受け、私は「ツダ巻き」と命名していた。