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「人を殺したかった」不可解な動機の事件はなぜ2000年代以降に急増したのか

『生身の暴力論』より #1

2021/01/26
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配信依存の「ノエル」少年

 2015年5月、ハンドル名「ノエル」と名乗る15歳の少年が威力業務妨害容疑で逮捕された。その前に首相官邸の屋上にドローンを落とした事件があったのを記憶されているだろうか。ドローンとは、簡単に説明すればラジコン式のヘリコプターである。そこに小型カメラを搭載し、空から陸上を映す事ができる。海外のジャーナリストなどが紛争地域の撮影などに利用していたケースもある。

「ノエル」少年はまず、長野県善光寺にドローンを飛ばした。それから東京の風物詩、浅草の三社祭で「ドローンを飛ばす」とネット放送で宣言し、浅草近くの公園でドローンを置いて生放送中に逮捕された。川崎市中学生殺人事件の主犯の家から生放送をしたり、以前からかなりの問題児だった。何人かの生放送配信者に聞くと、「いつかこうなるだろうと思っていた」といった答えが返ってきた。

「ノエル」は家庭でも配信依存に陥り、心配していた家族にパソコンを壊されていた。しかしどうしても「ノエル」はネット配信をしたい。けれど15歳の少年にパソコンを買い替える金もなく、「ノエル」が警察沙汰になる配信を面白がる数人の「大人たち」がカンパをしていた。

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©iStock.com

 ネットスラングで、配信者が視聴者からお布施と呼ばれる金を受け取る行為を古事記と呼ぶ。振込口座をツイッター等に晒しておき、そこに視聴者が直に振り込む行為が蔓延している。そして、お金を振り込んだ代わりに過激な放送をしてくれという視聴者からのリクエストに応え、配信者は警察沙汰になるような放送をする。「ノエル」の行為は氷山の一角であり、動画サイトや生放送サイトが発達してきた2009年頃からあった。さすがに「ノエル事件」は見せしめになったであろうから、すぐには同様の事をする輩は出てこないとは思うが、数年後、ほとぼりが冷めたら分からない。ネットの「国民」の声援や援助が、ノエルのような少年を増長させたとも言える。