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ふだんから「感動しい」

 ふだんから感情の振幅が大きいほうだという。

「よく映画を観て泣いています。『感動しい』というか、短気なんですよね。刺激を受け止めやすいというか、すぐに身体が反応してしまうところがあります。

 高校の修学旅行で北海道に行ったときもそうでした。バス移動でウトウトしていたんですね。眼が覚めるとバスは、トイレ休憩のためにどこかの駐車場へ入るところ。起き抜けで外に出ると、霜が降りるほど冷えた空気の中に、光がパアッと差してきて視界が覆われた。すごく綺麗だったんです。その光景に圧倒されてしまって、みんなはトイレに行ったり記念写真を撮っている中、ひとりでバスに戻ってえぐえぐ泣いてました(笑)。

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 悲しいとか嬉しいとか寂しいとかじゃないのに、ただきれいなものに身体が反応している感じでした」

©文藝春秋/松本輝一

 なるほど、しかし受賞会見では涙は見られなかったような……。

「そうですね(笑)。『大変なことが起きてしまった』という気持ちが大きくて、うれしさをかみしめるのに時間がかかりました。

 選考結果を待っているとき私は自宅にいて、作品を書かせてくれた文芸誌『文藝』の編集部とZoomで繋いだ状態でした。受賞のお報せをいただいたとき、音は切れた瞬間があったのですが、画面越しに見えた編集部の方々が喜びを表現していたので、こっちもうれしくてたまらなくなりました」