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「殺しちまえばいいじゃないスか」クリスチャンの被害者がオウムのサリン製造者を凍りつかせた瞬間

『私が見た21の死刑判決』より#27

2021/02/27

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 読書

note

 殺人者でも、みんな何かを思っている。

 外界の被害者を置き去りにするとも、組織の仲間は大切にする心の動き。

 そんな事情もあってか、教祖の忠実な下僕としてあらゆる殺人事件に関与、時には誤ってサリンを被曝して死にかけたほどの新實の弁護人は、裁判で唯一「内乱罪」を主張。国家転覆、乗っ取りを画策した集団組織の中で、絶対者として君臨した麻原には逆らえなかったという論陣を張っていた。「内乱罪」が適用されれば、死刑は組織の首謀者のみとなる。

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 しかし、それは通らなかった。

 新實は、無頓着ではいられなかった尊師とは較べものにならないほど、静かに死刑判決の瞬間を受け入れていた。

証言を拒んだ男

 土谷、中川と並ぶサリン製造グループのもうひとりで、やはり死刑になった中に遠藤誠一がいた。

 もっとも獣医師の資格を持つ遠藤は、炭疽菌やボツリヌス菌といった生物兵器と称しては、腐った水の出来損ないしかできなかったほうで、教祖に取り入っては上役面することから、土谷からはかなり嫌われていた。むしろ、土谷の功績を自分の手柄にしていたような男だった。出来上がった化学兵器を持ち出しては、事件現場にも立ち会っていた。

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 遠藤もやはり、事件の証言は拒んだ。

 ただ、彼は最初から、そのような態度を貫いたのではない。

 いくつもの事件で起訴されていたことから、裁判の冒頭手続き(罪状認否)は、何度かに分けて行われた。その最初のうちでこそ、全ての事実を認め、全ての証拠について採用に同意していた。いわば、林郁夫とまったく同じだった。

 ところが、そうした弁護方針をとっていた弁護人を突如、解任してしまう。

 理由は定かではないが、まことしやかに聴こえてきたところによると、事件に関する遠藤の証言が欲しかった他の共犯者の弁護人が遠藤と接見。そこで、遠藤の弁護人の弁護方針を批判して、こう言った。