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極刑を望む、とは決して言えなかった
畠山鈴香の場合は、もっと複雑だった。
殺された彩香ちゃんの遺族は、鈴香の実母であり、実弟であった。
だから、犯人に極刑を望む、とは決して言えなかった。
望むといえば、実娘を殺した鈴香と同じことを、鈴香の母親が背負うことになる。
そこにこの事件の悲劇があった。
あとにして思えば、それも極刑選択が躊躇われた理由のひとつなのかもしれない。
愛する家族を奪われたことで殺人犯を憎いと思う。そこで、死刑を望み、それが叶えば、殺人犯と同じ道程を歩んだことになるのではないか。
そこで苦しむ遺族の姿も見てきた。
検察の尋問に、どのような処罰を望みますか、と聞かれた女性がさらに涙を零して言う。
「ごめんなさい……死刑に……してください」
遺族が、ごめんなさい、といわなければならないなんて、どこかおかしい気がする。
とても残酷な世界がそこにはある。
ならば、この章の冒頭で触れた本村洋さんには、迷いはなかったのか、といえばそれも嘘になる。
彼は、差し戻し控訴審の意見陳述の中で、事件が発生してから、ひとつのことに悩んでいたと語っている。遺族として一切、取材に応じることもマスコミに触れることもなく、静かに裁判の経緯を見守るべきか、それとも、マスメディアに積極的に登場して報われない遺族の心を訴えていくべきか──。