コンテンツの神様をつくりだすメカニズム
夢枕 最初に、ホモサピエンスは宗教という物語を作ったとお話ししましたが、僕が最近すごい発想をする人だなと思ったのは、KADOKAWAの角川歴彦(つぐひこ)会長なんです。角川さんは、所沢にサクラタウンというコンテンツモールを作って、そこに「武蔵野坐令和神社」というちゃんとした神社も作ったんですね。そこではなんの神様が祀られているかというと、“コンテンツの神様”なんです。
中野 コンテンツの神様!?
夢枕 たとえば一般的に有名な須佐之男命は神様ですが、よく考えると須佐之男命だって人間によって作られたコンテンツなんですよ。要するに須佐之男命の神話を通して我々は須佐之男命という存在を認識している。コンテンツの神様というと、「わけがわからない」という人もいると思うんですが、菅原道真だって、祀られた当時は祟りを恐れてだったのが、いまや穏やかな学問の神様に変わっている。1000年経てば、神様の概念が変わる可能性があるんです。
中野 確かにそうですね。
夢枕 だから、コンテンツの神様を祀るという発想ができる、角川歴彦さんの脳って面白いなと思ってて。それを祀ろうというのは、出版だけじゃなく、映像事業なども手掛けているKADOKAWAらしくもありますよね。
中野 神様って、触っちゃいけないものだと我々は思っているところがありますが、神様と思ったら、もう神様というか。
夢枕 そうですよね。
中野 (目の前のアクリル板を指して)これだって、私たちを感染症から守る神様かもしれないし。
みんなが言えば携帯電話にも神が宿るかもしれない
夢枕 日本人は、モノも含めた全てに魂がやどると考えますからね。これは縄文時代からそうなんですけど、大切なのは1人がそう考えるだけじゃダメなんです。地域の人たちがみんな「あのでかい岩には神様が住んでいる」と言って、初めて神様になる。こういった縄文の神様のメカニズムが一旦は無くなったんですが、俳句の季語として復活したんじゃないかと思うんです。
中野 季語と神様がどう関係するんですか?
夢枕 季語って、俳人が1人「これは季語だ」と言っても、季語にならなくて、みんなが「そろそろアイスクリームも季語にしていいんじゃない?」と言って初めて季語として認められる。江戸時代にはなかった「アイスクリーム」という外来語がいまや押しも押されもせぬ夏の季語になっている。縄文の神って、宿らなくなったときに逃げて、別の宿り先を探すんじゃないかと思うんです。だから、いまや携帯電話に神様が宿っているかもしれない。みんな携帯依存症なのも、それが理由の1つなのかも(笑)。
中野 それこそ『陰陽師』の中には、鬼も神も一緒であるとか、人々がそう思った瞬間に神になるといった記述がけっこう出てくるじゃないですか。その発想だと、スマホの中に神様がいるというのもうなずけます。それも非常にユニークで、夢枕さんらしい発想ですね。今日のお話から『陰陽師』の今後がますます楽しみになりました!
(初出:オール讀物2021年1月号、撮影:文藝春秋/山元茂樹)