こ・けつ/1970年、台北市生まれ。某大学教授。2013年、本作(原題は『我是漫畫大王』)で第3回島田荘司推理小説賞を受賞。他の作品に「在洛杉磯不宜賞鯨(ロサンゼルスはホエールウォッチングに向かない)」、「去問貓咪吧(にゃんこたちに聞いてみろ)」がある。

「中国語で書かれた本格ミステリの新人賞」として2009年に始まった島田荘司推理小説賞。これまで台湾、香港、中国のみならず、世界各地から応募作が寄せられ話題を呼んできたが、第3回受賞作である『ぼくは漫画大王』は、日本の漫画をモチーフに、新本格ミステリも顔負けの技巧が凝らされた傑作だ。

「小学生の頃、山中峯太郎氏翻案のシャーロック・ホームズ全集や、南洋一郎氏翻案の怪盗ルパン全集の中国語訳を読んだのが私のミステリへの目覚めでした。その後も日本や欧米のミステリを読み漁り、大学に入ってから小説を書き始めました。卒業後は本業(研究職)が忙しくて小説を書く時間がなかったのですが、2010年に現在の職場に移ってから執筆を再開。『占星術殺人事件』のトリックにとても感動していたので、島田賞に挑戦してみようと思ったのです」

 物語の中で異彩を放つのは、漫画大王の異名を持つ少年“健ちゃん”の膨大なコレクションと漫画の薀蓄(うんちく)だが、漫画大王のモデルは著者自身とか。

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「健ちゃんはまさに私の分身です。小学生のころ私は大量の漫画を持っていて、たくさんの同級生が漫画を読みに私の家に来たり、私から漫画を借りたりしていました。放課後になると、マジンガーZの絵を描いてくれと何人もの友達が私の前に列を作ったのを覚えています。そして作中で健ちゃんを見舞った悲劇もまた、私自身が経験したことだったのです」

 作中に登場する漫画は「マジンガーZ」や「ガッチャマン」など日本のものばかり。じつは1960年代半ばから、戒厳令下での言論統制により台湾の漫画は著しく衰退し、替わって日本漫画の海賊版が市場を席巻していたのだ。

「日本で生活している皆さんには想像できないかもしれませんが、日本の南にある亜熱帯の島で育った私たちは、日本の小説、音楽、アニメ、ゲームに囲まれて大きくなりました。私たちにとって日本はサブカルチャーの上での故郷のようなものです。

 日本の読者の皆さんには、『ぼくは漫画大王』のミステリの要素を楽しんでいただく以外にも、数十年もの間に台湾で日本文化がどのように根を張り、芽を出していったかがわかっていただけるのではないでしょうか」

 かつて夢中で漫画をむさぼり読んだ覚えのある人なら、間違いなく楽しめるミステリだ。

家出していた妻が自宅に戻ると、夫が殺され息子は密室に閉じ込められていた――。奇数章はライバル“太っ許”と漫画大王の座を争う小学生・健ちゃん、偶数章は少年時代の事件のトラウマで鬱々とした人生を送っている妻子持ちの方志宏という男が主人公。父親と息子、2つの視点から語られる殺人事件の真相は?

ぼくは漫画大王

胡 傑(著),稲村 文吾(翻訳)

文藝春秋
2016年5月28日 発売

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