「今がその時」と行動を呼びかけている
荒谷氏はコロナ禍により、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏らグローバル資本家が人類支配を確立すると考えている。かつては近い将来訪れる貨幣経済の崩壊を余裕綽々と待っていたにも関わらず、事態の急速な進展に予定を変更したようだ。著書では「今がその時」と行動を呼びかけている。
戦う者たちが行動する時が来た。真の日本の戦闘者は今こそ戦わなくてはならない。戦いといっても武器をもってする戦いだけではない。
荒谷卓『戦う者たちへ 増補版(第3版)』(並木書房)より
ここで稲作をする、お祭りに参加する、テレビを見ない、メディアの情報を無視するといった非暴力的な抵抗例を示すものの、
その上で、奴らが強制力をもって戦いを仕掛けてきたら断固として戦う。有効性など考える必要はない。合理性を一切排除するところに日本文化の輝きが生まれる。「敵は幾万ありとても我行かん」の気概で戦う。
荒谷卓「戦う者たちへ 増補版(第3版)」(並木書房)より
と徹底抗戦を呼びかけている。「奴ら」がどんな「戦い」を仕掛けてくるのか判然としないが、その他の主張からワクチン接種の呼びかけにも反発しかねない雰囲気がある。
日本への陰謀論浸透を調査する米情報機関
このように、コロナ禍以降の荒谷氏の主張はQアノン陰謀論の影響を受けてか、先鋭化の度合いを増している。そして、荒谷氏の活動は外交的にも影響を与えるかもしれない。
ニューヨーク・タイムズの報道によれば、米バイデン政権で情報機関を統括する国家情報長官(DNI)に就任したアブリル・ヘインズ氏は、議会上院での公聴会の中でQアノンに関する調査に取り組むと表明している。既に日本やドイツといった海外へのQアノン陰謀論浸透について情報機関は調査しているという。
陰謀論で国内が深刻な事態に陥ったアメリカは、Qアノン追及・解明をより強めるのは確実だ。その中で日本の自衛隊が名指しされてしまったら、防衛省・自衛隊にとって大きな問題となるだろう。ドイツも昨年、陸軍特殊部隊KSKに極右思想が浸透していたことが問題になり、一部部隊を解散する事態になっている。
ネットには「武器を用いない戦闘訓練なら問題ない」と擁護する声もあったが、荒谷氏のブログには、訓練に参加した自衛官らがふんどし姿で川で禊を行うなど、荒谷氏個人の思想に基づく思想教育を行っていることを示唆する写真がアップされている。そもそも、その理屈だと武器を使わないなら、外国軍関係者による自衛官訓練も問題ないことになる。陰謀論を唱える元特殊作戦群長が、現役自衛官を集めて私的に訓練しているという事実は重い。
なお、筆者の知る自衛官の中に、荒谷氏の主張を見て頭を抱えたり、不快感を覚えた方が複数いたことは、ここに記しておきたい。
農本主義でプレッパーでQアノン……。古典から最新まで、荒谷氏が様々な思想の持ち主であることが分かったと思う。しかし、Qアノンは日本の天皇も陰謀に加わっていると主張するなど反天皇的な思想も含んでいるが、なぜ日本の右派に受け入れられるのだろうか……。
なお、著書によれば荒谷氏は、国家情報長官に就任したヘインズ氏をコロナ禍の陰謀に関わった一味とみているようだ。遂に「奴ら」の攻撃が始まったのだろうか。