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日本軍人がハマってきた農本主義

 筆者は荒谷氏が代表を務める団体の趣旨を読んで、戦前の農本主義を想起した。日本の軍人がハマる思想として、ある意味で伝統的なものだ。

 農本主義は農業を国家の根幹に据える思想であり、その思想自体はずっと昔から存在する。しかし、井上寿一学習院大学教授によれば、大正から昭和にかけて、農村の窮乏を救おうとした農業改良家らは、農村内部ではなく、外部要因(都会中心の資本主義)に問題があると考えるようになり、「彼らは農本主義に基づく社稷国家(土地の神と五穀の神の国)として日本の再生をめざす」(『戦前昭和の国家構想』講談社選書メチエ)ようになったという。

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 農本主義者の権藤成卿、橘孝三郎の思想は青年将校に大きな影響を与え、血盟団事件、五・一五事件に繋がっていく。現代史家の秦郁彦氏は、戦前日本型ファシズムにおいて、農本主義は「一種の思想的故郷ともいうべき地位を占めている」(『軍ファシズム運動史』河出書房新社)と、その位置付けを説明している。

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 では、これを踏まえて、荒谷氏の主張を確認しよう。荒谷氏の私塾のサイト内にある「問題意識と解決」の中で、現在グローバル資本主義が引き起こしている地球的問題に、既存の制度、政党、政治家等による解決は見込めないとして、次のように提唱している。

 市場中心のグローバル資本主義の流れを変えるということは、近代以降の西欧文明を基準とした世界秩序を見直すということです。とても大きな変革です。

 ですから、既存の制度やものの考え方では変革は無理です。既存の権力に依存していては何も変わりません。

 正しいと思うことは他に依存せず、自分で実践していかなくてはいけません。毎日、自分自身が正しい生き方をすること。そして同志が集い正しい秩序の共同体を運営していくことが最も確実な変革への道です。

 我々は、日本の伝統文化を通じて、この現状を再考し、人間の本来の立ち位置に戻ることを提案したいと思います。そしてそれを自ら実行する意志力と実行力こそが世界を正しい道へと導く唯一の解決策です。

「問題意識と解決策」

 荒谷氏の主張は反グローバル資本主義であり、グローバル資本主義と西欧文明が構築してきた現行の世界秩序を、稲作を中心とする日本の伝統文化によって正すというものだ。反資本主義、稲作(農業)を中心とする社会、地域共同体志向。これらは農本主義の構成要素だ。荒谷氏は農本主義という言葉を使っていないが、それに近い思想に自身で行き着いたのだろうか。いずれにしても日本軍人がハマる思想の伝統をなぞっている。