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後退というイメージは意外となかったです

――地位の後退、という視点についてですが、そもそもプロ棋士の後退と言えるのはタイトル失冠以外には竜王戦及び順位戦の降級、そして王位リーグと王将リーグの陥落くらいではないかとも思います。そう考えると、ある程度は勝たないと後退を経験できないとも言えそうですが。

斎藤 タイトルを失冠した時に後退というイメージは意外となかったですね。永瀬さんの将棋が充実していたからと納得していたのかもしれません。勝負師としてはもっと悔しがるべきなのかもしれませんが……。

 後退という意味では、第67期(2017年)の王将リーグから落ちた時は滅茶苦茶悔しかったですね。3勝2敗で迎えた最終局を負けての陥落でした。勝っていれば残留どころかプレーオフの可能性もあったので。

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――これまで、この「一局はやり直したい」というような後悔はありますか。

斎藤 案外ないですね。自分は「ここで負けたから、ここで勝てた」というように考えますので。もちろん負けて悔しかったことはいくらでもありますが、その結果を変えたいとは思いません。

――では、逆にいいことがあったらその反動も気にされますか。

斎藤 ありますよ。例えば、対局相手の大トン死で勝ったら、その帰り道は怖いですね(笑)。

今までのような覚悟ではいけない

――王座は失いましたが、その半年後に順位戦でA級へ昇級されました。

斎藤 A級はプロになってからもすぐには行けない特別な位置ですね。これまで記録係でしか経験したことがない場所で、そこに自分が入ったのは不思議な気持ちです。でもやるからには相応な準備が必要です。今までのような覚悟ではいけないと考えて、昨年の3~5月は以前にもまして真剣に取り組めたと思います。

――緊急事態宣言が発令された時期でもありますが、そういう状況においての取り組み方に違いは出てきますか。

斎藤 具体的な違いとなると、対面の練習将棋ができないことですよね。私はその形式が好きだったので、調整に苦労しました。あと、対局が延期するかもという不安をどう払しょくするかです。そういう状況で研究すること、気持ちのコントロールは難しかったです。

 モチベーション維持に影響がありそうだったので、自分が好きなことをやろうかなと考えました。具体的には詰将棋ですが、将棋の研究の合間の息抜きとして、1日中詰将棋に取り組む日もありました。詰将棋に向かった時間は、以前よりも多かったと思います。

 

写真=三宅史郎/文藝春秋

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