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「芸術的でサーカスを観ているような…」名人挑戦をうかがう斎藤慎太郎八段の“詰将棋愛”

「芸術的でサーカスを観ているような…」名人挑戦をうかがう斎藤慎太郎八段の“詰将棋愛”

斎藤慎太郎八段インタビュー #2

2021/02/02
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 昨年の緊急事態宣言中は、対面の練習将棋ができなくなったかわりに、モチベーション維持のためにも「息抜きとして」詰将棋に向かっていたという斎藤慎太郎八段。インタビュー後編では、その「詰将棋愛」と今後の目標について聞いた。

斎藤慎太郎八段

指す将棋には出てこない手順に魅力を感じました

――詰将棋の話が出ました。斎藤八段は「好きを通り越して愛している」というほどの詰将棋愛好家ですが、最初に詰将棋と触れたのはどのようなきっかけでしたか。

斎藤 最初に通った教室で3手詰を出されたのですが、「3手詰」の意味もわからずに質問したのは覚えています。ただ、どんな問題だったかは覚えていません。その頃は好きでもなく、アマ初段くらいまでは勉強のためにやっていたという感じですね。好きになったのは作品集を買ってからです。

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――どのような作品集ですか。

斎藤 若島正さんの『盤上のファンタジア』などですね。今までの詰将棋と違う手順で、指す将棋には出てこない手順に魅力を感じました。あと、小学生の早解き大会に参加して優勝したことがありました。当時の棋力はアマ四、五段くらいだったと思います。その時、浦野(真彦)八段に「筋がいい」と褒めていただき、詰将棋をもっと頑張ろうと意識しました。

――これまで解かれた作品で印象に残っているものはありますか。

斎藤 『盤上のファンタジア』の「第五十二番」ですね。▲3九香の限定打に△3五銀と中合いする作品です。この作品は、配置駒が少なく、また4段目までしかないところで▲3九香という遠打が成立していることがすごいところです。当然3八より上から香を打つと詰まない変化があります。対して△3五銀という空中への合駒が、玉方としては一番長く逃げられることにも驚いた覚えがあります。子どもごころに、芸術的でサーカスを観ているような気分だと感じた覚えがあります。

『盤上のファンタジア』の「第五十二番」(作者:若島正氏)

詰将棋愛好家の共通点とは

――今年は残念ながら中止が決まってしまいましたが、詰将棋解答選手権にもよく参加されています。

斎藤 順位はあまり気にしません。世に出る前の面白い問題を解ける喜びを得るために参加しています。ただ、初優勝はプロ入り直前(2012年の第9回)だったので、励みになりました。

――以前のインタビュー記事で、及川拓馬六段が「詰将棋を解くのが早い人で終盤が泥臭い人はいませんね」と語っていますが、この点について斎藤八段はどうお考えですか。

斎藤 詰将棋愛好家の共通点として、一つの筋をとことん追求してまで読むということが多いのはあるかもしれません。私も一直線の順を読む速さは備わっていると思います。直線手順を読みきってから、枝分かれを調べるという感じですね。藤井君もそうなのかなと思います。ただ勝負には泥臭さも時には必要なので、その出し入れができればと思います。