英語学習は「英語のラップを聴いて」
さまざまな海外メディアからのインタビューでは、どれだけ長い質問に対しても、タンはどう反応すべきかを瞬時に判断し、正確な英語でよどみなく答えた。中学校を離れて以降、進学していない彼女が、なぜこれほど英語を話せるのだろうか。
タンは独学で勉強し、適切な時期にさまざまな事物をうまく教材にして、自身の実力を高めてきた。20歳を過ぎてからはオープンソースソフトウェア(OSS)の国際フォーラムに積極的に参加して英語で発言や回答を行い、2005年からは英語でブログを書き始めた。2015年からは英語のラップミュージックにはまっている。
タンは英語学習の秘訣について、「英語のラップを聴いて勉強しています」と、気前よく教えてくれた。教材で一番のお気に入りは、米国ブロードウェイの有名なミュージカル『ハミルトン』だ。これは米国建国の父アレクサンダー・ハミルトンの生涯を描いた作品で、劇中独特の曲風でラップミュージックが多く挿入されている。
中でも彼女のお気に入りで一押しの数曲、「Wait for It」「Satisfied」などは、「考えずに歌える」くらいにまで覚え込んだと語った。メディア記者とのお茶会では、その場でリクエストに応えて披露したこともあった。
政治経験ゼロの素人が台湾の内閣で大臣になれた理由
なぜ、タンのような政治経験ゼロの素人が台湾の内閣で大臣になれたのか、多くの人が興味を持つだろう。
台湾政府は政治家のキャリアとして3種類のパスを用意している。1つ目は選挙だ。例えば、国会議員、県知事・市長、県・市議会議員は、必ず選挙で民意を得てその地位に就く。2つ目は国家の官吏となる道で、必ず国家公務員試験に合格し、下級公務員から始めなければならない。勤務成績が優れていれば通常は部会(省庁)の次長(副大臣)にまで昇進でき、少数だが部長(大臣)になる者もいる。国家試験で採用されると、政権が交代しても、仕事で失敗しなければ定年まで働くことができる。
3つ目は推薦だ。政権が成功する上で鍵となる職位、例えば行政院(内閣)の各部会の部長や次長には、総統や行政院長が各界のリーダーに意見を求めた上で、政策の推進に最適なキーパーソンを据える。そのため、学者から民間企業のトップ、さらには有名な社会運動家まで、部長または次長となる可能性がある。だが総統選挙によって政権が交代すると、閣僚名簿は通常すべて書き換えられる。
2016年、35歳のタンは推薦されて台湾の林全内閣のIT大臣となった。推薦者の1人は馬英九前総統時代に法政政委を担当した蔡玉玲だ。就任するタンに向かい、蔡は「政府運営のバージョンアップは任せましたよ!」と言った。
政委は部長に相当する職位だが、担当するのは通常、部会をまたぐ特別プロジェクトであり、ある部会特定の業務ではない。タンが就任する前は、内閣にはテクノロジー産業のハード面に関わる業務担当のテクノロジー政委がいるのみで、デジタルガバナンスを担当する政委はいなかった。