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天才ハッカーが政府に参入

 蔡が過去数年間政府で仕事をして気付いたのは、台湾中でスマートフォンが使われる時代に、政府の運営はまるで最も古いタイプの携帯電話のようだということだった。民意の収集から政策の研究・実行まで、どの過程においても、政府の対応はインターネットやテクノロジーを活用した臨機応変さを欠いていた。その結果、たとえ良い政策を決定しても、結局は人々の不満を招くことになっていたのだ。

「政府という機械は非常に複雑で、その中にいる各人がそれぞれ1つのボタンを管理している。1人がボタンを押しても動かず、全員が一斉にボタンを押さなければ前に進まない、そんな我々の機械は、切にバージョンアップが必要だ。特に部会をまたぐ新しい業務は、責任者となる人物を探すだけでもかなりの時間がかかる。なぜならどの部会も自分たちが主導すべきとは思っていないからだ」

 蔡はこのように考えていた。

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 だが、マスクマップアプリのように、人々が今、最も必要としているサービスこそ、その「部会をまたぐ新しい業務」なのではないだろうか。

©iStock.com

 短髪で黒いメガネをかけ、洗練された印象の蔡は、台湾では少数の、産業界とデジタル法令の両方に通じた専門家だ。法学部卒業後に弁護士資格を取り、司法官を9年間務めた後、台湾IBMに転身して7年のうちに大中華区法務長となった。その後独立して法律事務所を開いたが、2013年、招かれて政務委員に就任した。任期の大半をかけて電子商取引(EC)のデジタル経済法整備に努めたほか、政府が市民と法令について討論するオンラインプラットフォーム「vTaiwan」も立ち上げた。

 彼女は、民間のコミュニティの力を結集し、政策を推進することに長けていた。vTaiwanを設立する過程でシビックハッカー団体のg0vと接触し、そこでタンや中心メンバーと知り合っており、社会問題に対する彼らの熱意溢れる姿勢に深く共感していた。後に、g0vの友人に対し、「私も法律のハッカーになりたい」とさえ話し、その一部を実現している。

 2016年、タンは蔡らの推薦により、シビックハッカーのDNAを携えて政府に参入し、大臣に就任した。

 タンは行政院の政委事務室、つまりかつての蔡の事務室に入った。こうした「身分の交換」のような偶然について、蔡は冗談交じりに、

「大臣がハッカーになり、ハッカーが大臣になるというのは、たぶん史上初でしょうね」

 と言った。

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