新型コロナウイルスに対して水際対策やマスクの配給制で成果を挙げた台湾。IT担当相として実務を担ったのが、プログラマーのオードリー・タンだ。彼女の素顔や生い立ちを紐解いた『Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔』(アイリス・チュウ/鄭仲嵐 著)から一部を紹介する。(全2回の1回目。後編を読む)

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マスク実名制4・0

 タンは今回、民間の専門家との連携に成功し、人々が切望しているサービスをごく短期間で開発することに成功した。IQ180の持ち主であると言われている彼女は、その実行力とさまざまな逸話に注目した日本のメディアに、台湾の天才IT大臣として取り上げられたため、突然日本で話題の人物となった。

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 しかし、スポットライトを浴びてもおごることなく、タンは「私の身長は180㎝あるので、皆さん身長とIQを混同しているのでしょう」とジョークを言い、一転して真面目になると、「マスクマップの開発はコミュニティの友人たちの協力のおかげです。これは一種のソーシャルイノベーションであり、私1人の功績ではありません」とはっきりと述べた。

オードリー・タン ©Photographer Jessie Ho LEZS

 台湾はマスクを重要な防疫物資と見なし、その後もマスク購入システムを改良し続けた。薬局に行って並べば多くの人がマスクを購入できたが、20~39歳の若い世代にしてみると仕事や学業で忙しく、日中は思うようにマスクを買えないことに不満を抱きがちだった。公共衛生の専門家の基準によると、マスクの普及率が人口の7割以上になると予防効果が現れ、9割に達すると大規模な感染はおそらく起きない。

 どうすれば若い世代がマスクを入手できるようになるか。

 これが、次に解決すべき課題だった。政府はこれに対し、薬局に24時間営業のコンビニを加えた販売ルートの構築を図った。まず衛生福利部(厚生労働省)中央健康保険署の公式サイトでマスクを予約して料金を支払った後、コンビニで受け取ることができる仕組みだ。

 今回は個人情報が絡むため、政府のITチームが任命されて、このプログラムの開発に当たった。数日が過ぎ、リリースが間近に迫った最後の段階で、突如解決できない問題が起き、リリース延期の懸念が生じた。タンはこれを受けて夜中、同チーム技術責任者に「私も手伝う」と連絡し、大臣の身分をかえりみず自らプログラミングメンバーに加わると、以降2日間、ヘルプの1エンジニアとして共に任務を完成させた。

©iStock.com

 3月12日、「マスク実名制2・0」がリリースされた。前述したように、あるネットユーザーが未購入のマスクを各国の医療従事者に寄贈することを提案したのは、それからしばらく経った頃だ。

 その次のバージョンからは、コンビニでの予約と支払いが可能となった。4月22日には「マスク実名制3・0」がスタートし、台湾全土の1万店超のコンビニで、複合機に健康保険カードを差し込むだけでマスクの予約・購入ができるようになったのだ。そして、4月27日、中央健康保険署のソフトに「マスクを寄贈」という選択肢が加わると、わずか1週間で48万人を超える人々から計393万枚のマスクが寄付され、外交部(外務省)を通じて台湾の友好国に寄贈されることになった。これはネットユーザーから「マスク実名制4・0」と呼ばれている。