奇跡の債権の正体とは
「で? なんの督促なんですか?」
「うん、包茎手術」
「は……!?」
「包・茎・手・術」
「に、2回も言わないでください!」
予想外の答えにあわてる私に、K藤先輩ははじめて見るようなこの上なくイイ笑顔で、債権リストが綴られたファイルを手渡してくる。ただその笑顔は無言で「いいから督促しろ」と語っている。もちろん断れるはずもなく私はその奇跡の債権の督促をすることになってしまった。
「あのう、○○カードのN本と申します。×月×日までにお支払いの商品のご入金の確認が取れていないのですが……」
「え、○○カードさん?」
電話口に出たのは20代の男性。今回のお支払いが1回目の請求だった。
「俺、○○カードさん使ってないですけど?」
「あ、カードのご利用ではなく、ショッピングクレジットというお買い物の分割払いでご利用いただいている分で……」
初めて支払いをされるお客さまは、自分がどこの会社でクレジットを組んだか忘れている方も意外と多い。まずはそこから説明しないと「さては振り込め詐欺!?」とトラブルになってしまうこともままある。このお客さまもいきなりかかってきた電話に対して、声に不信感がにじんでいる。
「何の費用ですか?」
「あー、……い、医療費です」
(我ながら怪しいだろ!)と突っ込まずにはいられないが、一応あった羞恥心がそのものダイレクトな手術名を告げることを阻んでしまった。
一瞬の沈黙の後に……
言い訳をしておくが、お客さまの利用明細にはちゃんと医療費と書いてあるのでウソは言ってない。実は女性の補正下着や男性のカツラといった他人に買っていることが知られると支障のある商品は、お店側の配慮で請求書にそのままの商品名ではなく、略称やイニシャル表記など、ややわかりにくい名前で書かれていることが多いのだ。
ただ、これが原因でお客さまから「こんな商品買ってない!」とクレームを受ける場合も多々あるので、悩ましいところでもあるけど……。
「えー、医療費? 俺使ったっけ、そんなの……」