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「知られたくないものは回収率がいいのよ」ニヤつく先輩から教わった“奇跡の債権”の正体って?

『督促OL 修行日記』より #12

2021/02/07

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書, 社会, 働き方

note

ことごとく入金になる奇跡の債権

 うぅ、早く思い出してほしいのに。気まずく汗をかいている私をヨソに、お客さまはなかなか思い出してくださらない。(いや、わかりますよね! 大事なことですよ! 一大決心して、ひとつ上の男になろうと思ったのではないのですか!?)と祈り続ける。

「ちょっと、わかんないんですけど……」

 ……仕方ない、これも仕事だ。私は、すうっ、と息を吸い込んだ。

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「×月×日、△△クリニックでご利用された、包茎手術の医療費ですっ!!」

 一瞬の、沈黙。

「あ、ああああ!! はいはい、わかりましたっ、払います! すぐに払いますぅ!」

©iStock.com

 そしてものすごい勢いで電話は切られた。それから1時間もしないうちに入金確認が取れ、その後も続けて督促の電話をかけた「奇跡の債権」は、ことごとく入金になっていった。

「これはすごい……」

 私があまりの入金スピードに驚いていると、ニヤニヤと隣に座っているK藤先輩が耳打ちしてくる。

「美容整形とかもそうなんだけど、人に知られたくないものは回収率がいいのよね」

 確かに他人に知られたくない商品が未入金のままだと、気がかりで落ち着かないのかもしれない……。

「ちなみに、この手術専門で立て替えと回収やってる会社もあるのよ。もしうちの仕事、嫌になって転職するんだったら、いつでも紹介してあげるからね」

「う!? いやそれは。でも……ちょっとだけ、考えさせてください」

 毎日コレの督促をするのは少し複雑だけど、この商品、かなりいいかも。すぐに入金してもらえるし、お客さまに怒鳴られないのは確かに素晴らしい。ああでも包茎……包茎手術かぁ……、私はかなり転職に傾いてしまっていた気持ちを、ちょっとだけ押し戻した。

督促OL 修行日記 (文春文庫)

榎本まみ

文藝春秋

2015年3月10日 発売

「知られたくないものは回収率がいいのよ」ニヤつく先輩から教わった“奇跡の債権”の正体って?

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