ことごとく入金になる奇跡の債権
うぅ、早く思い出してほしいのに。気まずく汗をかいている私をヨソに、お客さまはなかなか思い出してくださらない。(いや、わかりますよね! 大事なことですよ! 一大決心して、ひとつ上の男になろうと思ったのではないのですか!?)と祈り続ける。
「ちょっと、わかんないんですけど……」
……仕方ない、これも仕事だ。私は、すうっ、と息を吸い込んだ。
「×月×日、△△クリニックでご利用された、包茎手術の医療費ですっ!!」
一瞬の、沈黙。
「あ、ああああ!! はいはい、わかりましたっ、払います! すぐに払いますぅ!」
そしてものすごい勢いで電話は切られた。それから1時間もしないうちに入金確認が取れ、その後も続けて督促の電話をかけた「奇跡の債権」は、ことごとく入金になっていった。
「これはすごい……」
私があまりの入金スピードに驚いていると、ニヤニヤと隣に座っているK藤先輩が耳打ちしてくる。
「美容整形とかもそうなんだけど、人に知られたくないものは回収率がいいのよね」
確かに他人に知られたくない商品が未入金のままだと、気がかりで落ち着かないのかもしれない……。
「ちなみに、この手術専門で立て替えと回収やってる会社もあるのよ。もしうちの仕事、嫌になって転職するんだったら、いつでも紹介してあげるからね」
「う!? いやそれは。でも……ちょっとだけ、考えさせてください」
毎日コレの督促をするのは少し複雑だけど、この商品、かなりいいかも。すぐに入金してもらえるし、お客さまに怒鳴られないのは確かに素晴らしい。ああでも包茎……包茎手術かぁ……、私はかなり転職に傾いてしまっていた気持ちを、ちょっとだけ押し戻した。