マーケティングとセールスは、正反対
このように企業に必要なのは、「マーケティング」だ。似た言葉に「セールス」がある。しかしセールスとマーケティングは、正反対の概念だ。セールスとは煎じ詰めれば「製品を現金に換えたい」という売り手のニーズが出発点だ。たとえばセールス重視の会社は、よく「売って売って、売りまくれ」といったり、「お客様にYesと言わせるテクニック」を身につけようとする。この考え方は、「顧客を大切にしよう」という考え方とは真逆である。
一方でマーケティングは、買い手のニーズが出発点だ。マーケティングでは「お客様のために全力を尽くせ!」と考える。
しかし「そんなことはない。われわれセールスも、お客様のことを一生懸命に考えて、全力を尽くしている」と言う人もいるかもしれない。本当にそうだろうか?
米国ウォルマートは世界最大の小売だ。売上57兆円。なんと日本のGDPの1割だ。このウォルマートの創業者サム・ウォルトンが、創業した頃のこと。部下が定価1ドル98セント、仕入れ値50セントの商品を「1ドル25セントで売りましょう」と言ったときに、サムはこう言ったという。
「ダメだ。仕入れ値に3割上乗せして、65セントで売る。儲けは、お客に還元するんだ」
ウォルマートはお客様に「最安値」という価値を提供することを真剣に考え、短期的な利益を削ってでも徹底的に買い手に尽くした。この結果、成長した。バルミューダも「子供たちの目を守るにはどうすればいいか」を考え続け、4年間の試行錯誤の末、The Lightを生み出した。バルミューダもウォルマートも、常にマーケティング発想で考えている。
もし「セールスもお客様のことを一生懸命に考えて、全力を尽くしている」という人がここまで考えていたとしたら、それこそがまさに「マーケティング発想」なのだ。
企業の使命は、顧客創造と顧客満足だ。製品はあくまでも手段に過ぎない。しかし残念ながら、あまりにも多くの企業が手段に過ぎない製品を中心に考えてしまっている。本論文から60年経った今でも、この状況はあまり変わっていない。
尖った商品を世に出し続けているバルミューダは、一見すると徹底的に製品を中心に考えている会社に思える。しかしその実態は、消費者のことを徹底的に考え抜く「マーケティング・カンパニー」なのだ。バルミューダがこのマーケティング中心の姿勢を堅持し続け、いつか日本から世界市場に羽ばたいていくことを願ってやまない。