2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織と、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂。その詩織がインスリン製剤を大量投与するなどして、茂が植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。(全2回中の2回目。前編を読む)

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航空会社の懇切な計らい

 私は直ぐに航空会社の新潟支店に電話を入れたが、祝日のせいか、何度かけても繫がらない。仕方なく同じ会社のあちこちの支店に片っぱしから電話する。ようやく関西の支店が繫がった。

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「新潟からハルピンに行く予定の知人の中国人が、日本語が話せないため、飛行場行きのバスに乗る所を、間違って佐渡行きの船に乗ってしまった。予約していた今日の12時過ぎの便には到底間に合わない。なんとか二重払いなしで次の便を取ってもらえませんか」

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 日本の航空会社のスタッフは実に誠実である。

「現地と連絡を取ってみましょう」と受け合ってくれた。やがて新潟のスタッフから電話が来た。

「何さん(※詩織の義兄)の件、なんとか二重払いなしで考慮しました。ただ次の便は2日後の午後2時です」

 こちらのミスなのだから、それは仕方がない。それより航空会社の懇切な計らいに、いたく感謝し、私は何度も携帯電話の向こうの男性スタッフに礼を述べ頭を下げた。

 それから直ぐに陳に電話。何が新潟に着いたら中国語の話せる船のスタッフに聞いて、まずは新潟駅行きバスに乗せてもらうようにする。バスに乗ったら終点で降り、駅近くの、できるだけ安いビジネスホテルに行く。ホテルに着いたらホテルのレセプション(受付け)の係りに、直接、私の携帯に電話をもらえるよう指示して欲しいと頼んだ。

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 ホテルスタッフから電話が来たのは数時間後だった。

 事情を説明し「日本語の分からない中国人だが今夜と明日と二晩泊めて欲しい」と依頼した。

 何の服装があまり見映えがしないのと、ホームレスのような大きな荷物(味噌汁とインスタントラーメンなのだが)を持っているので、ホテル側は、当初逡巡しているようだったが、「私も明日、そちらに行く」と言うと、ようやく納得してくれた。