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仕事をやり繰りし、新潟のホテルへ

 翌日、私が新潟のホテルに着いたのは既に夜だった。レセプションで問うと何はショッピングのため外出しているという。仕事をやり繰りし、心配して駆け付けただけに、ちょっと“ムッ”としたが、何にしても一日中ホテルに籠って、私を待っている訳にはいくまい。思い直して、とりあえず、部屋に荷物を置くことにした。

 古びたビジネスホテルのシングルは、ベッドひとつでキツキツで、小さな作りつけのライティングデスクの傍らに安っぽいパイプ椅子があるだけ。そのあまりの閉塞感に何が外出した気持ちも分かるような気がした。私も、そこでじっとしているのにいたたまれず、階下のロビーのソファーで待つことにした。

 何は大きな紙袋を抱え30分ほどで戻ってきた。

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 玄関を入り私を認めると「オーッ」といって紙袋を放り投げ、汗臭い体で抱きついてきた。やはり、相当心細かったのだろう。私もハグし、背中をドンドンと叩いてやった。

「夕食は?」と漢字の筆談と仕草で聞くと、まだだという。

 私も食べていなかったので、荷物を部屋に入れるとスグに近くの和食店に行く。

 新潟の魚市場は安く種類も豊富で有名だが、適当に頼んだ肴はどれも旨かった。

 何も、私に会って安心したせいもあるのか、生まれて初めてだという刺身を「旨い、旨い」と頰張っていた。

©️iStock.com

 その間、どうして飛行機に乗れなかったのか、筆談によって聞き出した“事情”は以下のようだった。

――新潟駅に着くと、隣の座席だった初老の男性が親切にバス乗り場の近くまで連れて行ってくれ「あそこだ」と指さして教えてくれたという。

 ところが、空港行きのバス停の直ぐ隣が、フェリー乗り場行きであった。運悪くフェリー乗り場行きのバスが先に到着し発車間際だった。何は慌てて飛び乗ってしまったらしい。港に着き、皆、ぞろぞろ船に乗るので、ちょっと変だと思ったらしいが、船の着く先に飛行場があるのだろうと船に乗り込んでしまったという。

©️iStock.com

 ところが出港し、いくらたっても空港に到着しない。気がつけば周りはすべて海。飛行機の出発時間はどんどん迫ってくる。そこで初めて間違いに気づいたようだ。慌てて船の公衆電話から陳に連絡した――というのが顚末のようだ。