起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第46回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

山形さんの母親が残した2枚のメモ

 松永太らから総額1億3000万円あまりの現金を搾取された、ワールドの元従業員・山形康介さん(仮名)の母親(故人)。彼女はすべての支払い内容を記した、2冊の出納帳を残していたが、ほかにも多くの資料を捨てずにいた。

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 そのなかに走り書きされた2枚のメモ用紙がある。ともに松永と緒方純子が福岡県柳川市から逃げ出す前年にあたる、平成3年(1991年)の日付が付けられているものだ。

 1枚目のメモには「5月 300万(円)」との記載があり、その横には「お見舞い治療費」の文字が並ぶ。同じ紙には、以下の支払い記録が書き込まれていた。

〈6/4 50万 慰謝料内金

 6/6 55万 葬儀代

 6/9 300万 慰謝料内金

 6/13 300万 慰謝料内金

 6/19 200万(350万) 被害者業務負担金請求

 6/25 100万(400万) 慰謝料内金(専務300、母100)

 6/27 100万 慰謝料終了

 6/27 50万 治療費内金(132万)

 6/30 82万 治療費全額終了〉

山形康介さん(仮名)の母親のメモより ©️文藝春秋

 これだけを見ても、わずかな期間のうちに、計1237万円が支払われている。書かれている文面の日付を出納帳と照らし合わせると、出納帳の6月4日には「康介車事故内金として」とある。つまり、息子である山形さんが車で事故を起こし、そのことで金銭が必要になった、との要求があったのだろう。

松永の細かな偽装

 なお、19日と25日については、合計額は350万円と400万円だが、そのうち、200万円と100万円を支払ったという意味だと読み取れる。25日の文面に「専務300、母100」とあるのは、400万円の慰謝料のうち、「専務(松永)」が300万円を、母親が100万円を負担するということ。事故の補償を山形さんだけが行っている訳ではないことを偽装するため、松永は支払っていないにもかかわらず、そのような説明を加えたものだと思われる。

※写真はイメージ ©️iStock.com

 なお、25日の支払いについて、出納帳には「事故内金残500万」と書かれていることから、25日の100万円と27日の100万円の計200万円を母親が出して、慰謝料(総額500万円のうち、“松永分”を除いた200万円)の支払いが終了したというわけだ。

 ちなみに、先の文面にあるように、当時、松永はワールドの従業員に、みずからを「専務」と呼ばせていた。それはなにか問題が起きた際に、「社長」としての責任を回避することを考えての、偽装だったと見られている。