人間と同等の知能をもち、言葉を喋り、武器を手にした猿が人間と戦争状態になる。これを読んだだけなら、ほとんどの人が「荒唐無稽なつくり話」と思うはずだ。
これが『猿の惑星:聖戦記』という映画(つくり話=フィクション)の骨子である。さらに、知性をもった猿がCGで描かれると聞けば、作り物感に溢れた絵空事の映画だと思うかもしれない。しかし、この作品を観た我々は、スクリーンの猿たちに、実在する隣人や友人に対するような切実でリアルな感情を抱き、涙すらする。さらに、現実の世界で起きている紛争や戦争のメカニズムを、鮮明に理解できるのだ。
「感動の実話」時代のエンタテインメントとは何か?
この作品は、リアルな感情や共感や真実を観客に伝えるための手段として、フィクションがいかに有効かということを証明した傑作である。同時に、映画やゲームなどのエンタテインメントにおける「リアル」とは何か、それを成立させるためにはどうすべきなのかについて、改めて考えさせられる映画でもある。
近年のハリウッドの作品には「Based on a True Story」を謳ったものが多く見られる。宣伝にも「感動の実話!」のようなコピーが乱れ飛ぶ。ヒューマンドラマだけではなく、ホラーですら「かつて実在した館で起きた実話」をベースにしているものもある。実際に、実話ベースのものでないと企画が通らない傾向にあるのだ。
我々をめぐる環境の変化が、その一因だろう。
SNSやYouTubeなどには、世界中の人が撮ったリアルな映像が溢れている。日常の光景はもちろん、爆笑のハプニングや、かつてはニュースでも見られなかった事故や災害の瞬間や、目を疑うような絶景までが、スマートフォンやタブレットで、ほぼリアルタイムに見ることができるのだ。
おかげで、ハリウッドが得意とするエンタテインメントですら、リアル志向の影響から逃れられなくなっている。
『ダンケルク』『スター・ウォーズ』における「リアル」
『ハードコア(英題:HARDCORE HENRY)』や『クローバーフィールド』『REC』などPOVで撮影された映像や、監視カメラが捉えた映像などを多用したファウンド・フッテージものの流行などもそのひとつだ。FPSゲームの大ヒットの影響もあるだろう。より臨場感を作ることのできるゲームの手法を、映画に応用したのだ。ブロックバスターの大作も、それらとは別の方法でリアルを志向している。
役者が体当たりで演じる生身のアクション、超絶的なスタント、大量のエキストラの動員、本物と見紛うような実物大のセットやプロップなどを投入して、リアルな作品を作ろうとする。
例えば『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、実際に人が乗り込める実物大のミレニアム・ファルコンやXウィングを作ったことが話題を集めた(『エピソード8/最後のジェダイ』でも同じようだ)。
なんといっても最近の話題は、「観客に実際の戦場を体験させる」という意図で作られた、クリストファー・ノーランの『ダンケルク』のリアル志向だ。第2次世界大戦の史実「ダンケルクの戦い」をベースに、実際にダンケルクでの撮影も行われた。さらにイギリス軍の戦闘機スピットファイアの実機を使用した(ドイツ軍のメッサーシュミットは、スペイン製の同型のものを改造しているが)。海岸に集結する大量の兵士を描くために6000人のエキストラを用意し、足りない分はダンボールの兵士で補ったという。画面に登場するものは実在し、手で触れることができる。徹底したアナログの手法でリアルな戦場を再現した。これがこの映画の最大の「売り」であり、批評家や観客の評判もいい。メディアなどでは「アナログ派」とみなされるノーランだが、本人が語るように、デジタルの否定派ではない。しかし、監督本人の意図を離れて、『ダンケルク』は、アンチ・デジタルの作品として喧伝されているようにも見えてしまう。