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CGかアナログかを超えたものを見せる映画

 ビデオゲームの大ヒットや、CGを多用した映画の全盛にひとこと言いたいと考えるメディアや批評家が、アナログへの回帰を強調したくなるという面もあるだろう。それは、テレビやゲームが登場した時に、映画の敵とみなされたことを思い出させもする。そもそも新しいメディアや技術は、反感を買いやすい。

 映画がリアルかどうかは観客が決める。そもそも映画において、アナログの手法で撮影したからリアルだとか、CGを多用しているからリアルでない、と単純に言い切れるものではないだろう。

『猿の惑星:創世記』に始まるリブート三部作は、このような考え方に一石を投じた。そればかりか、冒頭でも述べたように、フィクションによって真実(リアル)を語るという物語の力を証明してもくれたのだ。CGの猿と実写の人間が境を超えて見せるドラマは、CGと実写(アナログ)のどちらがいいのかという問いを無意味なものにして、リアルな感動を与えてくれる。CGもアナログも映画のリアルを作るための手段のひとつにすぎないということを、改めて見せてくれる。

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「猿の惑星:聖戦記」©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

『猿の惑星』は第2次世界大戦時の捕虜体験に基づいた物語

 1968年に公開された映画『猿の惑星』は、フランス人の作家ピエール・ブールの同名SF小説を原作にしている。この小説は、作者の第2次世界大戦時の捕虜体験に基づいていると言われている。人間よりも劣っている猿に人類が支配されているという立場の逆転を描くことにより、人種差別やマイノリティー差別、白人至上主義的な西洋の価値観の転倒を提示したのだ。

『猿の惑星』は、現実の世界をありのままに描くのではなく、比喩と思考実験によって現実の深層を抉り出すというSFの機能を最大限に使って、大ヒットし、全5作が製作された。

「人間以上の知性と文明をもつ猿」というフィクショナルな存在を描くために、当時の最新のテクノロジーが使われた。それは着ぐるみと特殊メイクというアナログな技術なのだが、特殊メイクを担当したジョン・チェンバースはアカデミー名誉賞を受賞している(ベン・アフレックが監督した『アルゴ』は、実際のアメリカ人大使館員救出作戦をベースにしている。作戦は「映画という嘘」を利用したものだが、ジョン・チェンバースは、そこに重要な役で登場している)。

 この映画の成功は、テクノロジーのおかげだけではない。人種差別や、核兵器、東西冷戦といった当時の社会問題を、進化した猿と退化した人類というフィクションを使って、メタ的に描いていたからでもある。特に人種差別の問題は、言語(作中の人類は英語を喋ることができない)や遺伝というテーマにまで掘り下げられていた。

 それをリブートしたのが2011年公開の『猿の惑星:創世記』から始まる三部作である。ストーリーは『新・猿の惑星』『猿の惑星・征服』『最後の猿の惑星』の流れをモチーフにしたオリジナルだが、その精神は忠実に受け継がれている。進化した猿という大きな嘘を描くために、CGという最先端のテクノロジーを投入し、現代の社会が抱えている問題を描くという姿勢もそのひとつだ。

 2作目の『新世紀』(2014年)、本作『聖戦記』(2017年)まで一貫しているばかりか、進化している。

「猿の惑星:聖戦記」©2017 Twentieth Century Fox Film Corporation