「俺が寝ている間にもっと努力してるヤツがいる」
当時、志村さんは10日に一度くらいのペースで映画のDVDを買っていました。行き先はたいてい赤坂の駅ビルにあるショップ。毎回10本くらい買います。そして、どんなに飲んだ日でも、自宅に帰ったら1本は映画を見ていました。
「どこにコントのヒントがあるかわからないし、映像の撮り方も応用できるかもしれない」
それが毎日映画を見ていた理由です。実際、ネタ会議にDVDを持ってきて「こういうふうに撮れないかな?」とディレクターさんに提案することもよくありました。
「飲んだあとに映画を見るなんて大変ですよね」
あるときそう聞いたら、こんな答えが返ってきました。
「俺が寝ている間にもっと努力してるヤツがいるかもしれない。そう考えたら不安になるから、見たほうが落ち着くんだよ」
各局ドラマのほとんどをチェック
長年芸能界のトップにいながら努力を惜しまないのはすごい――と、僕はそのとき思いました。しかし、話はむしろ逆なのかもしれません。努力を惜しまないからこそ、ずっとトップに居続けたのかもしれないと、今は思うのです。
志村さんは映画だけでなくドラマも熱心に見ていました。新しく連続ドラマがスタートすると、とりあえず見る。2話くらい見てつまらなかったら、もう見ない。面白かったら次回も見る。そんなふうにして各局ドラマのほとんどをチェックしていたのです。
コントに使えるものは何かないか? 面白いことは何かないか? 志村さんは1年365日、いつも探し続けていました。すごく大切なことを、身を以て示してもらっていたのだと今ならわかります。
しかし当時の僕は、「寝る間も惜しんですごいなあ」とか、「いつ寝ているんだろう?」くらいにしか思っていなかったのでした。
志村流「アイデアの作り方」とは?
志村さんはお気に入りのDVDを僕にたくさん貸してくれました。最初に貸してもらったのは、ジェリー・ルイスの『底抜け』シリーズです。
僕はその頃、往年の海外コメディアンといえばチャップリンくらいしか知らず、何の予備知識もないまま『底抜け』シリーズを見たのですが、たしかにすごく面白かった! ジェリー・ルイスが時折見せる表情は志村さんに似ているな、とも思いました。
志村さんが貸してくれたのは映画のDVDだけではありません。桂枝雀さんの落語、藤山寛美さんの松竹新喜劇のDVDも「面白いぞ」と貸してくれました。
先ほど書いたとおり、志村さんは僕にインプットを求めていました。「お前は俺にいろいろ聞くな」と言われた僕は、しばらくCDなどを渡していましたが、それはフェードアウトしてしまいました。一方の志村さんは、お気に入りのDVDをどんどん貸してくれて、僕にインプットのきっかけを与えてくれたのです。
いま振り返ってみて「本当にかわいがってくれていたのだなあ」とありがたく思うのと同時に、僕からはほとんどインプットをお返しできなかったことを、心から申し訳なく思います。