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なぜ夏という季節は映画の普遍的なテーマであり続けるのか

映画『夏時間』――ユン・ダンビ(映画監督)

2021/02/27

source : 週刊文春

genre : エンタメ, 映画

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『はちどり』『チャンシルさんには福が多いね』を始め、近年、韓国では新世代の女性監督の活躍が目覚ましい。その作品は多種多様だが、小さな主題から世界を捉える鋭い感性に毎回驚かされる。1990年生まれのユン・ダンビもそのひとり。彼女の初長編『夏時間』(2月27日公開)は釜山国際映画祭で4冠を達成し、新鋭監督として国内外で大きな注目を集めている。

『夏時間』は、事業に失敗した父に連れられ、祖父の家で夏を過ごすことになった姉と弟の物語。そこに父の妹も転がり込み奇妙な共同生活が幕を開ける。両親の別居や祖父の世話といった家族の複雑な事情を、どこか醒めた様子の少女オクジュが見つめている。見る者に郷愁を感じさせる夏休み映画。この宝物のような映画は、どのように生まれたのか。

ユン・ダンビ監督

人生を決めた小津安二郎監督の『お早よう』

――まずは監督の経歴を教えてください。光州出身で、ソウルで映画を学んだとうかがいましたが。

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ユン・ダンビ 私が育った光州市は、山もなければ海もない、地方の小さい街です。この街で育ったことで、幼い頃から不安を感じていました。外にはもっと広い世界が広がっていてみんなどんどん成長しているのに、私だけこんな窮屈な所に閉じこもっていていいのかと。どういう大人になりたいかも決まらず、高校生になっても進路については迷ってばかりでした。そんな時、光州劇場という地元の古い劇場に通い始めました。そこでは古い映画をたくさん上映していて、それらを見ていくうちに映画に対して強い親しみを抱き始めました。小津安二郎監督の『お早よう』を見た時には、初めて本当の友人と出会えた気がして、年代も国籍も違うのにどうしてこんなに感情を共有できるのか不思議でした。初めて「ここに友達がいる」と感じられた。ソウルに上京し大学で映画の勉強をしようと決めたのは、こうした映画との出会いがあったから。当時は女性監督の数が本当に少なかったので、監督になるのは無理だとあきらめていましたが、どんな形だろうと映画の世界に入れればと思ったんです。

 映画の道に進みたいと父に話すと、「映画というのは特別な人たちがやるもので、おまえみたいな平凡な家庭で育った平凡な人間には無理だ」と言われました。それでも上京をあきらめようとしない私を心配して母は占い師に話を聞きに行ったんですが、そこで「この子は実に運気が高い。もしソウルに行かせたらソウルの方が後退りするだろう」と言われたそうです。それで私は漠然としつつも強い自信を持ってしまったわけです(笑)。もちろんその後上京しても、ソウルは後退りなんてしませんでした。