――冒頭のシーンにも心を摑まれました。半地下の家から出たあと、家族全員が乗った車がどんどんもとの家から遠ざかっていきますが、周囲の建物にはあちこちに大きな×が描かれていて何か不穏な雰囲気が漂います。再開発地域なのかなと思ったのですが、あれはどのような場所なのでしょうか。
ユン・ダンビ おっしゃるとおり、再開発が進んでいる地域です。私が実際に住んでいる場所のすぐ近くにある街ですが、再開発が予定されているのでほとんど人は住んでいません。
――この場面を長回しで撮ったのはなぜでしょうか。
ユン・ダンビ 彼らがこの再開発されていく街を離れておじいさんの家に行くんだ、という現実を強調したくてワンカットで撮影しました。映画の最初のシーンですから、説明的にならず、イメージだけで伝わるように表現したいと思ったんです。
なぜ夏という季節が映画の普遍的なテーマであり続けるのか
――この映画はオクジュと家族が過ごすひと夏の記憶を描いていますよね。過去にもホウ・シャオシェン監督の『冬冬の夏休み』をはじめ様々な夏の映画がありますが、なぜ夏という季節が映画の普遍的なテーマであり続けるのか、監督はどうお考えですか。
ユン・ダンビ やはり冬は寂しく孤独なイメージがあるからでしょうか。製作者の立場からいうと、冬は、雪が降ったりでもしないとどうも温かみを伝えるのが難しい季節だと思います。『夏時間』に関していうと、私はここで成長を描きたいと思いました。人も成長し庭では作物も成長する。だから季節は夏を選択しました。成長を描くにはぴったりの季節ですから。
実を言うと、私は『冬冬の夏休み』を見たことがありませんでした。他のホウ・シャオシェン監督作品はほぼ全部見ていたのに、それだけ見ていなくて。でも『夏時間』が公開されたあといろんな人がこの映画を思い出したと言ってくれて、ようやく見ることができました。実際に見たら、なるほどな、と納得しました。
――最後に、次回作の予定について教えてください。
ユン・ダンビ 漠然と考えているのは、恋愛を描きながらも家族が登場するような映画です。『夏時間』は17歳のオクジュが主人公で、どこか過去を振り返るような作風でしたが、次回は、現代を生きる20代から30代の女性を主人公にと考えています。それから、たぶん冬の映画になりそうです。
ユン・ダンビ Yoon Dan-bi 1990年、韓国生まれ。2017年に檀国大学大学院に入学し、初長編『夏時間』を監督。本作は第24回釜山国際映画祭で上映され、NETPAC賞など4冠を獲得。その実力に大きな注目が集まっている。
INFORMATION
映画『夏時間』
2021年2月27日(土)~ユーロスペースにてロードショー全国順次公開
http://www.pan-dora.co.jp/natsujikan/