なぜ私は栗城さんのことが大好きになったのか
栗城さんの内面に迫ろうとする、著者の鬼気迫るほどの執念が垣間みえた。
その取材によって明らかになるのは、どちらかというと栗城さんの欠点や不完全さだ。ともすると、死者への批判と非難をあびる可能性さえあるほどに。それにもかかわらず私は栗城さんのことが大好きになっていたのだ。一体なぜなのか。
本書には、著者から栗城さんへの、父の様な優しさを、あるいは同じ会社の先輩から後輩への眼差しの様なものを感じた。自身の挑戦を「ショー」として発信し、登山資金を集める栗城さんは紛れもなく「演出家」であった。だが同じく「演出家」で、より多くの経験をしてきた著者に言わせれば、栗城さんはまだまだ演出家として未熟だった。フェイクでない自身の弱みを描き切れていなかったからだ。著者は取材過程で栗城さんの「演出」にかかわる致命的な欠陥を発見する。ちゃんとした演出家さえついていれば彼は死ななかった。著者はそういう。
本書は全体を通して、栗城さんの死の原因を探るノンフィクションに思えて、その実、演出とはこうあるべきだ、という著者の理想を示そうとした書としても読める。もっといえば、一度は彼の人生に関わりながら、最後まで向きあえなかった事を悔い、詫びる鎮魂の書にも思えた。
こうのさとし/1963年、愛媛県生まれ。87年に北海道放送入社。ディレクターとして、ドキュメンタリー、ドラマ、情報番組などを制作。本作で第18回開高健ノンフィクション賞を受賞。
たかはしひろき/2005年、テレビ東京に入社。プロデューサーとして、『家、ついて行ってイイですか?』などの番組を制作。