文春オンライン

「町田市民は、東京と神奈川の間で押し付け合われていると気づいてる」 国道16号線がつなぐ「郊外」のリアル

三浦しをんさん、柳瀬博一さん対談

genre : ライフ, , 歴史, 読書

 大賀ハスという、古代のハスの花を見ることもできますね。

 古代のハスの実を発芽させて蘇らせたというもので、薬師池公園の池で毎年咲いてます。とてもきれいですよ。

 ひとつの街って、ダウンタウン部分と小綺麗な住宅街があって、公園や自然があって、それから大きな車の走る郊外ストリートがあって、と情報量が多い。町田という言葉の含む中には、幾つもの彩りがあります。

ADVERTISEMENT

 本当にそうですね。都会的なビルから、活気のある商店街から、こっそり人を埋められるような山まで、いろいろとあるんです(笑)。

 町田や相模原は自然が豊かですからね(笑)。「人をこっそりと」でいうと、町田を含む16号線エリアの荒んだ郊外の側面を書かれたのが高村薫さんの『冷血』(新潮文庫、2012年)ですよね。「刑事合田雄一郎シリーズ」の一つで、大好きな小説です。町田から横浜にかけての16号線沿いに暮らす男と千葉に住む男とが闇サイトで出会い、東京都北区の山手に住む歯科医一家四人を殺害する。東京の山手の住宅地帯と対比させるように、町田界隈の16号線エリアの描写があります。


「少し市街地を離れると、空き店舗のシャッターが朽ち、不法投棄の資材や鉛管が野ざらしにになった空き地があり、暴力的なほど平坦な風景が続く」(『冷血』上巻より)。なるほど、たしかにそういう風景もありますが、一方で、町田に暮らす方々は小説と同じ風景を見て、全然異なるイメージを抱くかもしれません。

 そうですね。もしかしたら、「郊外ってそんなに荒んでるっけな、田んぼでカエル鳴いてるけど……」ってなるかもしれませんね(笑)。一方で、大きなショッピングモールやチェーン店が連なる国道沿いは画一的で人工的で、住宅街には似たような家が建ち並び、という郊外の印象ももちろん間違っていないとも思います。

町田はシルクロードが通るまち

 町田には別の顔もあります。信州や甲州、北関東といった養蚕地帯から八王子に集められた生糸や絹製品が横浜港まで運ばれて海外に輸出されました。幕末から明治時代にかけての日本の勃興期を支えたのがこの生糸産業ですが、その生糸が運ばれた「絹の道」こそが、いまの国道16号線と重なるわけです。そしてこの「絹の道」が通る街が町田なんですよね。

町田駅前の道標 著者撮影

 そうでした! 今日、これだけは絶対お伝えせねばと思っていたんですけどね、町田には柿島屋さんという、有名な老舗の馬肉料理屋さんがあるんです。おいしくてお手頃価格でお勧めなんですが、なぜ馬肉料理のお店が町田にできたかというと、その日本のシルクロードの途中にある町田あたりで、絹を運ぶ馬がちょうど行き倒れるからだと(笑)。実際は、もともと運搬用の馬の手配をしていたということのようですが、行き倒れ云々という話が出るくらい、馬の行き来が多かったということですよね。