2月27日の「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)に杉山文野さんが登場。話題の著書『元女子高生、パパになる』(文藝春秋)を入り口に、トランスジェンダーとして生きてきた自身の体験や活動を通じてマイノリティの人々がおかれている現状などについて“授業”を行った。「週刊文春WOMAN」(2020秋号)に掲載された杉山さんの文章を再公開する。日付、年齢、肩書きなどは掲載時のまま。
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14年前、著書『ダブルハッピネス』でトランスジェンダーであることを告白した杉山文野さんは、今年2歳になる娘の父親になった。子供の親は、パパとママだけという決まりはない。杉山さんが模索する家族のかたちとは?(全2回の1回/2回目を読む)
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2018年11月、10年の付き合いになるパートナーが娘を出産し、元女子高生だった僕はパパになった。
生まれたばかりの我が子の第一声、出産立ち会い時の緊張感と興奮、初めて我が子を腕に抱いた時のわきあがるような幸福感……。
生き方が見えなくて死ぬことばかり考えていた僕の人生に、こんなにも感動的な日が訪れるなんて思ってもみなかった――。
体は女性として生まれたけれど、性自認は男性。LGBTQの“T”、トランスジェンダーである僕が、家族や仲間にカミングアウトをしながら自分を取り戻していく過程を綴った著書『ダブルハッピネス』(講談社)の出版から約14年。娘の誕生を機に、僕は再び自分の半生をまとめた本を書くことにした。
人生初の就職、LGBTQ当事者のための活動家と言われる立場になったこと、たくさんの仲間たちとの出会いと別れ……。
同著を通じて伝えたいことはたくさんあるが、今回筆をとった一番の原動力は、成長した娘に向けてメッセージを残したいという想いにある。
自分たちに子供を持つ未来はないと思っていた
この秋で2歳になる娘は、ゲイである僕の親友・ゴンちゃんから精子提供を受け、僕のパートナーが体外受精を行った末に授かった。現在は僕と彼女が暮らす家をゴンちゃんが週に数回訪れて娘の世話をする、3人育児という形でかけがえのない日常を積み重ねている。
今でこそ幸せをかみしめながら子育てに奮闘しているが、以前はそれぞれがLGBTQ当事者であることを理由に、「子供を持つのは無理だ」と諦めていた。
「だってLGBTQだし」
「そういう人を好きになったんだから仕方ないよね」
そんな僕が「子供を持とう」と思えるようになったのは、トランスジェンダーの前田良さんと出会ったことがきっかけ。彼は女性から男性へ移行する手術を行い、戸籍を男性に変更。その後女性と結婚し、第三者からの精子提供を受けて子供を2人もうけていた。
楽しそうに前田さんの足にしがみつく子供たちと、それを微笑みながら見守る彼のパートナー。彼らは血の繋がりのない親子なのに、どう見ても普通のいい家族でしかない。
〈そうか、血の繋がりにさえこだわらなければ、僕も家族を持てるのかもしれないのか……〉
他人事だと思っていた「子供を持つ」という選択肢が初めて自分の現実と結びついた。