2月27日の「世界一受けたい授業」(日本テレビ系)に杉山文野さんが登場。話題の著書『元女子高生、パパになる』(文藝春秋)を入り口に、トランスジェンダーとして生きてきた自身の体験や活動を通じてマイノリティの人々がおかれている現状などについて“授業”を行った。「週刊文春WOMAN」(2020秋号)に掲載された杉山さんの文章を再公開する。日付、年齢、肩書きなどは掲載時のまま。
◆ ◆ ◆
14年前、著書『ダブルハッピネス』でトランスジェンダーであることを告白した杉山文野さんは、今年2歳になる娘の父親になった。子供の親は、パパとママだけという決まりはない。杉山さんが模索する家族のかたちとは?(全2回の2回/1回目を読む)
◆ ◆ ◆
子育てに関わる大人は多いにこしたことはない
3人で子育てをすると決めた僕らがまず訪れたのは、LGBTQの事情に詳しく、かつ子供の人権をご専門のひとつにしている山下敏雅弁護士の事務所。現状の日本社会で3人子育てをするには、どんなハードルがあるのか。生まれてくる子供を一番いい形で育てるにはどんな方法があるのかを知っておきたかったのだ。
まず聞いたのは、親権について。実は、僕は乳房を切除しホルモン投与で生理を止めているものの、子宮と卵巣を摘出する性別適合手術については必要を感じず受けていない。そのため、戸籍上の性別は“女性”のまま。パートナーとは法律上は“女性同士”のカップルになり、結婚することができない。また、日本の制度では婚姻関係のないもの同士で共同親権をもつこともできない。
だが、彼女がシングルマザーとして出生届を出し、ゴンちゃんがその子供を認知、さらに僕が子供と養子縁組を結べば3人とも法的に親になれる可能性があるという。これは直接妊活に関われない僕にとってちょっと嬉しい情報だった。
山下先生のアドバイスを受けながら、特に話し合ったのは、最悪の事態が起きた場合のこと。
もし誰かが仲違いしたら? もし意見が割れて子供の取り合いになってしまったら?
さまざまなケースを想定したうえで決めたのは、万が一の時の子供についての最終親権は彼女が持つということ。それ以外は常に3人で協議して決めていく。
なんとなくだけど未来の方針が見えたこと。そして山下先生の「子育てに関わる大人の数が多すぎて困ることはないですよ」というひとことに大きな安心感を得て、僕らは本格的な妊活を始めることにした。