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「四つの特性」とは?

 第一は、腫瘍性がなく安全性が高いこと。再生医療として先行して脚光を浴びてきたES細胞やiPS細胞は、この課題を完全にはクリアできていない。

 第二は、分化誘導の必要がないこと。ES細胞やiPS細胞の場合、目的とする細胞に移植前に分化誘導する必要があるが、ミューズ細胞は自らあらゆる細胞に分化できる多能性を持つ。よって「手間もコストもかからずに済む」と出澤教授は言う。

 第三は、外科手術が不要なこと。ES細胞やiPS細胞なら脳であれば開頭手術、心臓であれば開胸手術をして、分化させた細胞を移植することになる。一方、ミューズ細胞は点滴するだけで済む。

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 第四は、ドナーの細胞を使うにもかかわらず免疫抑制剤を必要としないことだ。健康なドナーが提供者であれば、誰のものでも気兼ねなく直接点滴できる。そのため、作り置きをしておいて、必要なタイミングで迅速に提供することができる。

ミューズ細胞

ALSの治験が始まった

 こうしたミューズ細胞の特性に可能性を感じ、製薬企業として名乗りを挙げたのが、三菱ケミカルホールディングス子会社の生命科学インスティテュートだ。同社は2018年1月、ミューズ細胞製剤の治験を開始した。治験は学術研究のための臨床試験とは異なり、薬機法(医薬品医療機器等法)に基づき、人を対象とした医薬品の承認を得るために安全性や有効性が慎重に審査される。

 これまで急性心筋梗塞を皮切りに、脳梗塞、脊髄損傷、表皮水疱症、新生児低酸素性虚血性脳症という五つの疾患で治験が進められてきた。

 さらに今年1月、六つ目として、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治験が始まった。有効な治療法が確立されていない難病であり、患者は過酷な闘病を強いられる。昨年には患者の嘱託殺人事件も起きている。

 出澤教授は2月に行われた記者会見で「ミューズ細胞の研究の中でいくつかの疾患を思い浮かべた中の筆頭でした」とし、「道のりは長くかかったんですけど、やっとここに来た」と喜びをにじませた。