「まだ他にも可能性はたくさんある」
ミューズ細胞は主に急性障害に効きやすいと目されてきた。ミューズ細胞が損傷部位に集まるためのシグナルの役割を果たす物質は、急激に細胞が壊れていく疾患ほど著しく放出されるためだ。
しかしALSは進行性の慢性疾患だ。だが、岡山大の研究グループがマウスを使った動物実験を行い、ミューズ細胞にALSの進行を遅らせる効果があることを確認した。出澤教授は会見でこうも述べた。
「ALSのように、おじいさんのつぶやきのような小さなシグナルであっても、ミューズ細胞はシャープにたどり着くことができた。実は自分自身も当初そこまで期待していなかったので、点滴でいけると分かった時には大変興奮しました」
出澤教授は、ジャーナリストの森健氏と私の取材に、現在進行中の治験に限らず「まだ他にも可能性はたくさんある」と語っている。全国各地の研究者たちが地道に広げてきたミューズ細胞の研究は、今や中国はじめ他国でも精力的に進められているという。iPS細胞のような国家的プロジェクトに比べれば、日本国内での注目度はまだ高いとは言えない。だが、実用化が迫る今、ミューズ細胞が医療の常識を塗り替える可能性が出てきているのだ。
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「文藝春秋」3月号および「文藝春秋 電子版」では、「『ミューズ細胞』の再生医療革命」と題したルポを掲載。発見者である出澤教授自身に、ミューズ細胞の特徴やメカニズムの解説、「うっかりミス」が突破口となったという発見に至る経緯などをたっぷり語ってもらった。またミューズ細胞製剤を手がける生命科学インスティテュートによる異例の挑戦も紹介し、出澤教授と描く「医療革命」の展望に触れている。
「ミューズ細胞」の再生医療革命
【文藝春秋 目次】芥川賞発表 受賞作品全文掲載&選評 宇佐見りん「推し、燃ゆ」/<総力特集>コロナ第三波「失敗の本質」/<追悼>半藤一利 三月特別号
2021年3月号
2021年2月10日 発売
定価1000円(税込)