夫と私は、通算成績の数字が比較的近いことが発覚した
長く将棋を指していると、毎局必ず万全の態勢で臨めるわけではなくなる。
私達は生きて、生活しているから当たり前のことだ。私が現在一番それを肌身に感じているのは出産・育児に関してだが、小さくは日々の体調から、病気や介護など、他にも人それぞれのライフイベントが発生する。置かれた状況の中で、どれだけ将棋に向かい合うことが出来たか、その積み重ねの結果が通算成績となって可視化されるのだ。
結婚式の誓約ではないが、病める時も健やかなる時も、指せる将棋はすべて指してきた。デビューしてから引退するまで、ずっと離れずにくっついてくる。通算成績はその人の棋士・女流棋士人生を集約したものなのだと思う。
そういえば最近、夫の及川拓馬六段と私は、現在の通算成績のそれぞれの数字が比較的近いことが発覚した。
・及川拓馬六段 278勝 190敗(0.5940)
・上田初美女流四段 301勝 180敗(0.6257)
私の方が7年程早くデビューしているため、今のところ私の方が少し、勝ち数と対局数をリードしている。この差を守り切れるかどうかというのが、当分の間、我が家での争いになりそうだ。
抜いた瞬間にガッツポーズをしてくる人間だ
数年前までは女流棋士よりも棋士の方が棋戦数が多く、対局数も多かった。
しかし清麗戦、白玲戦と女流棋士の対局数増加を狙いの1つとした棋戦が2つ出来て、対局数は棋士と大きい差がなくなった。こうなれば1年間にどちらが多く勝つかが非常に重要になる。私達は夫婦であるが、同時に勝負師同士であるため、何の意味のない勝負(そもそも勝負ですらない)であろうと負けるのはイヤなのだ。
300勝の次は、数字的には400勝が区切りだ。
しかし100勝後のことを目標にするのは無理がある。それよりは目の前の、「夫に抜かれないために勝つ!」の方が分かりやすい。日々真摯に将棋に向かう人達から見れば、実にくだらないだろうが、それ位の方が私にはちょうどいい。子どもの頃だって、「大会で優勝したい」よりも「あの子に勝ちたい、負けたくない」の気持ちの方が強かったタイプだった。
夫は「イヤ、そんなもんいずれ抜くから」と素知らぬ顔をしているが、抜いた瞬間にガッツポーズをしてくる人間だ。想像しただけで、やはり抜かれるわけにはいかない。
いつか、私達夫婦が互いに現役を引退する時に、自分達の通算成績を見て「こっちの方が勝ち数が多いな」「でもこっちの方が勝率が高い」と言い合えたら、とても幸せだろうな、と思う。
最後に、卒業・卒園を迎えた皆さま、そしてそれを支えている皆さま、この度はおめでとうございます。皆さまの新たな門出が素晴らしい日々となりますよう、お祈りとお祝いを申し上げます。
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対局、解説、執筆……多方面で活躍している上田初美女流四段、その最新コラムが文春将棋ムック「読む将棋2021」(3月9日発売)に掲載されています。ぜひお買い求めください。