昨年に北関東一帯で発生した家畜窃盗事件以来、注目を集めるようになったのが在日ベトナム人問題だ。制度に疎漏が多い技能実習制度のもとで逃亡者が続出し、2020年6月末時点で国内のベトナム人不法滞在者は約1万5000人。昨年からはコロナ禍の影響で、留学や技能実習を終えても、航空券の高騰などで帰国できない人も増加している(特例として在留を認められる例が多いが、困窮ぶりは大して変わらない)。

 いっぽう、犯罪も増加中だ。昨年、窃盗品の食肉売買で話題になった「ボドイ・グンマ(群馬の兵士)」をはじめとする彼らの複数のSNSコミュニティを覗くと、不法滞在者でも働ける職場の情報や、トバシの銀行口座、偽造の在留カードや車検シールの売買情報といった、怪しげな書き込みが多数見つかる。こうした場所で車両を違法に調達し、無免許状態で乗り回す人も非常に多い。

群馬県警察本部 ©時事通信社

 通常、この手の外国人問題がらみの記事が出ると、Yahoo!ニュースのコメント欄あたりには「さっさと送り返せ」といった勇ましい意見が大量に書き込まれる。しかし、困窮ベトナム人の多くはもともと日本国家の制度下(技能実習制度)で来日し、帰りたくてもコロナ禍のせいで帰れない人たちである。もっとも、逆に「かわいそう」一辺倒の論調で彼らの姿を伝える大手メディアの報道も、昨今のアナーキーすぎる現状との乖離が大きい。

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「微妙」なベトナム人の棲み家たち

 私は過去3年以上にわたり、こうした「微妙」な外国人たちの現状を追い続け、今年3月2日に『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(KADOKAWA)を刊行した。

 なお、同書の主役でもある「微妙」なベトナム人たちについては「技能実習生や偽装留学生・不法滞在者・帰国困難者」などと毎回書くのは面倒なので、私は彼らのSNSコミュニティ名から「ボドイ(兵士)」と総称することにしている。

 そんな私が最近行っているのは、上記の書籍にも収録した「群馬の兄貴」のアジト取材をはじめ、社会的事件を起こしたボドイたちの隠れ家を特定して突撃取材を仕掛けることだ。

 今回の記事では、過去に私と通訳のT(日本育ちのベトナム難民2世)が訪れたさまざまなボドイの棲み家を紹介していくことにしよう。

(1)兄貴ハウス(通称アニハ) 群馬県太田市

 アニハは群馬県の田んぼのまんなかにたたずむ、縁もゆかりもない男女19人が共同生活を送るシェアハウスである。豚窃盗疑惑や家宅捜索など数々のハプニングが起きるなか、男女は近所のため池で小鮒を釣って唐揚げにしたり素手でビール瓶を開けたりしながらリアルなストーリーをつむいでいる。

兄貴ハウスの入り口。もっとも、「群馬の兄貴」はこの家のリーダー格ですらなかったとみられる。

 昨年11月以来、私はこのアニハに合計3~4回訪問した。どうやらここでは、スキンヘッドの半グレ博徒4~5人と、カタギの逃亡技能実習生たちが互いにさしたる関心を持たないまま、同室で寝泊まりして食事を共にして家計を助け合うという、不思議なコミュニティを形成しているようだった(これはその後、複数のボドイの隠れ家を観察するなかでもみられた)。