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「群馬の兄貴」、ひき逃げ、豚解体風呂…ベトナム人不法滞在者のアジトに“突撃7連発”

2021/03/03
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(5)南シナ海防衛軍人ハウス 茨城県つくばみらい市

 こちらはちょっと変わり種だ。業界最上位の素材メーカーの技能実習生の宿舎なのだが、福利厚生がしっかりしている会社らしく、たとえば私が若いころに一人暮らししていたアパートと比べても、よっぽど清潔で新しい住居である。築10年ほどの50平米の家を2人でシェア。付近は閑静な住宅街で、駐車場にBMWを停めている家すらある。

 技能実習制度は性善説で構築されているため、母国での送り出し機関と日本側で仲介する監理団体、受け入れ先企業の3者いずれかがブラック企業であれば、実習生にとって厳しい環境が生まれる。だが、コンプライアンス意識の高い大企業がまともな監理団体と付き合い、まともな監理団体がまともな送り出し機関と提携し……といった「正」の契約関係が連なった結果、ハッピーな技能実習生生活が奇跡的に実現するケースもある。

住人の健康的なライフスタイルを物語る、物干し竿を改造して作ったバーベル(左)。また、突然の訪問にもかかわらず果物を振る舞ってくれた(右)。

 この家の住人はまさにそういう人たちだった。私たちが友達になった実習生A君(30)は、なんとベトナム海軍の兵士を経て技能実習生になった人物である。過去の勤務地は中国との領有権紛争が激しい南シナ海の某島で、中国漁船(という名の武装船舶)から圧迫を受けながら島内で構築物を建築していたという。

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 では、なぜそんなホワイトな実習生宅に私が突撃したかというと、昨年12月に県内で無免許ひき逃げ死亡事故を起こした不法滞在者女性のチャン・ティ・ホン・ジエウ容疑者(30)がA君と交際しており、事故当日の夜もこの家に宿泊していたからである。

 ボドイのチャン容疑者は、無車検無保険のセレナでひき逃げ死亡事故を起こした当夜、A君になにを話したのか。3月10日発売の『文藝春秋』4月号に詳しいルポを寄稿したので、興味がある人は手にとってみてほしい。

(6)「名古屋の兄貴(自称)」部屋 愛知県岩倉市

 こちらは初の中京圏での突撃となる築40年のアパートだ。すでに6軒目にもなると、私と通訳のTはボドイの隠れ家捜索にすっかり慣れてしまい、集合住宅の洗濯物を一瞥しただけで彼らがどこに住んでいるかおおよそ見当が付くという謎の鑑定能力を獲得するにいたった。

 ちなみにこちらの物件は、去る12月某日に愛知県小牧市内で39歳の女性を無免許運転でひき逃げして骨盤骨折の重傷を負わせた元技能実習生の不法滞在者、レ・ホン・ファット容疑者(25)が住んでいた場所だ(正確にはレ容疑者は逮捕よりしばらく前に同じアパートの別室に転居)。

友人が逮捕されているとは思えないほど陽気な住人。ひとまず、彼らが記念撮影をはじめたので一緒に写る。

 例によってビールと焼き鳥を手に突撃してみたところ、仲間が3~4人ほど住み続けていたので、日頃のレ容疑者の様子や人となりについて聞き出すことができた。ちなみにこの家の居住者のうち、不法滞在者はレ容疑者のみで、残りの彼らは元留学生などでコロナ禍による帰国困難者。いちおう、日本には合法的な身分で滞在する人たちである。

 彼らとの話のなかでは「群馬の兄貴」の話題が出た。いちばん年上の住人の1人が、ビール缶を片手に「俺は名古屋の兄貴だ!」と怪気炎を上げたので、ここは名古屋版のアニハと呼んでおくことにする。