(7)借金賭博録イバラキ 茨城県某市
実はまだ訪問していない……。というか、企画が固まって編集部からよほど明確なGoの指示を出されない限り、可能なら行きたくない場所である。なぜなら、ベトナム人マフィアグループの明確な組織犯罪行為と関係がある場所だからだ。近年のボドイたちのコミュニティを震撼させている事件である。
これはどういう犯罪かというと、まずはどんくさそうなボドイや技能実習生たちに対して、半グレたちが圧倒的僥倖とばかりにオンラインギャンブルを持ちかける。そして、額面のうえでは数百万円という、ベトナム人の出稼ぎ者にとっては天文学的な金額の借金を背負わせる。
そうした債務者をアジトに拉致して制裁を加え、ベトナム国内にいる家族を締め上げれば、なんだかんだで50万円くらいは絞り取れてしまう……。という、借金返済目的の拉致というよりもむしろ身代金誘拐に近い、悪魔的発想による犯罪である。
昨年秋ごろから、日本全国ですくなくとも5~6件、類似の事件が明るみに出ている。そのうち1件では、茨城県某市のボドイの隠れ家が債務者たちの拉致監禁場所として用いられた。
事件の現場となったアパートの名前は、なんと「エスポワール」である(本当)。人生逆転ゲームを望んだ債務者を欲望の泥沼に沈めて監禁する、ベトナム人半グレ集団が築いた地下帝国の拠点。ボドイの世界の現実は、マンガよりもよっぽどマンガ的なのだ。
技能実習制度と表裏をなす“無法地帯ぶり”
私が見るかぎり、どうやらベトナムの人たちは、外部から怪しげな人間(私たちのことだ)がやってきても、ひとまず受け入れてみてからもっと深い部分で信用できるか見極める傾向がある。彼らの隠れ家を見つけ出し、どれだけ腹を割った話を聞き出せるかを試してみる作業は、取材者としてはかなり「楽しい」ものである。
ただし、真面目に調べていけば調べていくほど、穴だらけの技能実習制度と表裏をなすボドイのコミュニティの無法地帯ぶりに驚かされるのも確かだ。取材のなかで不法滞在者に会いすぎたせいで、最近の私はもはや合法的なビザを持っている外国人をみただけで「ものすごく真面目で偉い人」だと感じてしまうという、認知の歪みすら生じつつある。
北関東と中京地方を中心に広がるボドイの世界は、徐々に広がりを見せつつある。これが一定以上まで膨れ上がったとき、世の中はどう変わるのか。否が応でも逃げられない多文化社会化の波が、日本を覆いつつある。
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