もっとも、このときには20人以上のベトナム人があちこちで逮捕されたにもかかわらず、肝心の家畜窃盗については現時点までほとんどわからずじまいである。
「豚解体風呂」についても、実は上記の(2)だけではなく、他の場所にも複数ある。たとえば、私たちはベトナム人の逮捕者が出た群馬県太田市由良町のアパートも尋ねている。こちらは不法滞在者ではなく、技能実習生たちが集まり住んでいた場所だったようだ。
近所で聞き込みを重ねた末に現場を特定。いざ行ってみると、換気扇が動いており、室内からはカビと獣臭が混じった独特の臭気(中国の下町の飲食店の台所裏に似た匂いだ)が漂っていたが、昼と夜に時間をズラして何度か訪問しても住民に出会うことはできなかった。
部屋は1階にあり、2軒隣には日本語がほとんど通じないフィリピン人が住んでいた。ボドイたちの部屋の裏手に回ってみると、食料用の植物が何種類も栽培されていたのが印象的だった。
(4)豚発送小屋 群馬県太田市
2020年末に訪問。地主らしきそこそこ大きな家の敷地に、1棟4部屋ほどの貸家があり、そのうち1棟で暮らすベトナム人男女がここから豚肉を発送していたことで群馬県警に逮捕された……。はずなのだが、私たちが苦労して場所を特定してアタックしてみたところ、当該の男女はすでに退去していた。
周囲はほぼ田園地帯で、立地環境は「群馬の兄貴」のアジトとよく似ている。こうした場所での日常生活は自転車ですら不便であり、ボドイたちがこぞって(違法に)仲間内で自動車を調達して無免許運転をおこなうのも納得できる気がする。
なお、ボドイ・コミュニティを通じて自動車を購入する場合、相場は10万~30万円ほどだ(車検も自賠責保険料も支払わないので安い)。
昨年9月にはこうしたルートでボドイたちに自動車を売っていた岐阜県内の35歳の男が逮捕されている。『日本経済新聞』によれば、男は2018年12月以降に80台の中古車を販売し、そのうちのべ64台が24府県で(ボドイらによる)当て逃げ事件や無免許運転などを起こしていたという。