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「自分はこんな所で働く人間じゃない」 “モンスター社員”に共通する“哀しい生態”とは

『あなたの隣のモンスター社員』より #1

2021/03/08

source : 文春新書

genre : ビジネス, 社会, 働き方, 読書, 企業

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「本来、自分はこんな所で働く人間じゃない」

 M山は、40代の男性で、前職は誰もが知る有名企業でエンジニアをしていた。しかし、激務から体調を崩し、仕事を辞めて田舎に帰ってきた。体調も良くなり、地元で再就職をしようと就職活動を始めたが、自分のキャリアを活かすような仕事はなく、ようやく介護関係の会社に就職が決まった。しかし、今までと全く違う仕事になかなか馴染むことができず、同僚の女性従業員から、何度も注意を受ける事があった。そのうち、「前の仕事は、給料がこんなに高かった」「前の職場では、管理職で部下が20名くらいいた」「前の職場は大手企業だったから、福利厚生がよかった。休暇も毎年2週間くらい取れた」「この会社はワンマン社長が好き勝手に経営している」と会社の批判をするようになっていった。

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 その話を耳にした社長が、

「40代での再就職は難しいだろうと思って拾ってやったのに、どういうつもりだ」

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 と叱責した。すると、M山は、ますます会社に対して反抗的になり、待遇面で不満を持っていた従業員などを味方に引き入れて、会社に対して嫌がらせをおこなうようになった。あるときは、管理者の机にゴミをぶちまけたり、あるときは、従業員全員のタイムカードをシュレッダーにかけたりなど、常軌を逸した行動にまでエスカレートしていった。たまりかねた会社が、M山を解雇すると、今度は弁護士を雇って、解雇無効の争いを起こすという始末だ。最終的には会社がいくらかM山に支払って何とか退職してもらった。

 M山は、大手企業でエンジニアをして管理職だったというくらいなので、おそらく優秀な人だったのだろう。ところが病気で自分の人生が大きく変わってしまい、鬱積した気持ちを抱えていったのだと推測する。

「本来、自分はこんな所で働く人間じゃない」

「もっと自分の能力は高いのだ」

 というプライドが、不満や怒りへと変わっていったではないか。その思いが、会社への批判や嫌がらせといったゆがんだ形で噴出した。会社批判、過剰な要求、嫌がらせ、非常識な言動の裏には、こういった感情が隠れている事がある。