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「お姉さんを見たのはこの部屋。怖いとは感じないんです」

 妖怪に関する話はまだあるという。

「ここは明治、その前からあったみたいなんで、その当時のお姉さんがいるんですよ。白い服を着ているんです」

「それは幽霊ってことですか?」

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「悪く言えば、幽霊やけど、ここを守ってくれているんですよ。だから守り神なんです。見えなくても雰囲気というかな。この障子の向こうにいらっしゃるなと感じる時もあるんですよ」

©八木澤高明

 女性の幽霊という話を聞いて、1年半ほど前に話を聞いた地元の男性の言葉を思い出した。天王新地では東北の女性もかつて働いていたという。もしかしたら、故郷を遠く離れて働いていた女性の魂が、故郷へと帰らず、今もこの家に宿っているのかもしれない。

「今私たちがいる部屋は、昔は物を入れる場所だったんですよ。入った当時は、使ってなかったんです。私がお姉さんを見たのはこの部屋なんです。全然怖いとは感じないんですよ。それからしばらくして、新しく入った女の子がこの部屋を使いたいって言ったんです。それで使いはじめたら、その女の子がめっちゃ売れたんですよ。1ヶ月に2、300万稼いだんですよ」

「40代からここ。この仕事は二十何年やっています」

「今は英子さんが一番古いんですか?」

「そうやな。年も一番古いけどな」

「年聞いて失礼なんですけど、おいくつですか?」

「今年50後半になります。40代からここで働きはじめたんですけど、この仕事は二十何年やっています」

「それはどこでやっていたんですか?」

「アロチの方に昔はサロンがあったんです。ピンサロです」

「町の人がお忍びで遊びに来る場所だったみたい」

 会話を続けながら、私は取材者であるということを告げるタイミングを計っていた。正面から名刺を渡して取材すると心に決めていた。

 話し始めて5分以上が過ぎ、少しばかり場が和んだと思い、私は色街を巡りながら取材を続けている者だと告げて、名刺を渡した。

「本名と顔を出さなければいいですよ。私も引退したら天王新地の語り部になろうと思っているんですよ」

©八木澤高明

 彼女は、天王新地の歴史なども調べているという。

「ユーチューバーとかも来てくれたんですよ。歴史とかも調べたりしてくれてんやけど、ここの歴史は古いんよ。江戸時代に、和歌山の街ができて、その頃にはあったみたいなんですよ」

「明治時代じゃなかったんですか?」

「何度か、止めさせられたりとかあったみたいやけど、もっと古いのよ。紀州のお殿様の時代に町の人とかがお忍びで遊びに来る場所だったみたいですよ。古くからある場所やから、私が知る限り一度も警察の手入れとかも入ったことがないんですよ。未成年の子使ったとか、ぼったくりしたとか聞かされたら、警察も来たかもしれないけど、こっちも気をつけてやってますからね。働いている女の子も安心なのよ。私は他のところで2回捕まってますけどね」

「それはピンサロ時代ですか?」

「そうです。和歌山のサロンは本番やってたんですよ。売春行為になるんでね。女の子は調書だけで返してくれんですけどね」

「今もあるんですか?」

「もうないです。一昨年でなくなったんです。というのはね、全部デリヘルにやられてしまったんです」

「どこもですね」