地元のタクシー運転手も「まだやってるの?」と訝しむ“限界色街”和歌山・天王新地は、コロナ禍という逆風を乗り越えることができたのか――。

『娼婦たちから見た日本』(角川文庫)、『青線 売春の記憶を刻む旅』(集英社文庫)などの著作で知られるノンフィクション作家・八木澤高明氏が街を歩いて出会ったのは、古株として今も店に立ち続ける英子だった。(全3回の3回目。#1から読む)

古株の女性が語ったコロナ禍の“色街のリアル”とは… ©八木澤高明

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「小さい子を見ると、孫がいたらそれぐらいかなって…」

 興味深い話をしてくれた英子だが、彼女のこれまでの人生についても聞いてみたいと思った。話せる範囲で構わないので、聞かせてくれないかと言うと、「いくらでもどうぞ」と言いながら応じてくれた。

「ご結婚はされてるんですか?」

「していました。19歳の時に結婚して、子どもが2人いて、30歳の時に離婚したんです。姉が借金をこしらえましてね。それを私が全部背負ったんです。800万円ほどでした。それが旦那にばれて離婚となったんです」

©八木澤高明

「お姉さんはなんで借金をしたんですか?」

「それがわからんのです。飛んでしまったんです。私が知らぬ間に名前を使われていて、連帯保証人にされていて、返さないといけなくなってしまったんです。お金のことで家の中で言い合いになったりするようになって、一緒に生活するのが辛くなったんです。それ以外にも家庭内暴力もあったんですけどね」

「お子さんは、引き取られたんですか?」

「元旦那の両親が面倒を見ています。もう別れてから会ってないんですよ」

「会いたいというお気持ちは?」

「いゃー。向こうも今更会いたいという気持ちもないでしょう。男の子だから奥さんにつくだろうしね。女の子だったら会いたいなと思いますよ。ときおり、小さい子を見ると、孫がいたらそれぐらいの年齢かなって思う時もありますよ」

 孫の話をした時、これまで陽気に話してくれていた英子の表情が、少しばかり曇ったように思えたのは気のせいだろうか。