ドラマ『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)での熱演が話題の俳優・草笛光子さん。「週刊文春」3月11日号から新連載「きれいに生きましょうね」が始まりました。第1回を特別公開します。
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私はいま、憤っています。そして、可哀想で可哀想で涙が止まりません。この写真は、何度見てもダメ。「焼き場に立つ少年」という写真です。小学校中学年くらいの坊主頭の男の子が、死んだ弟を背中におぶって、火葬場で順番を待っている写真。昭和二十年、原爆が投下されたあとの長崎で、アメリカの従軍カメラマンが撮影したそうです。
その写真が、一昨日またテレビに映っていました。見るのは辛い。けれども、目を背けてはいけない。
汚れた裸足で、不動の姿勢でまっすぐ前を向いて、歯を食いしばって口をへの字に結んでいます。いっそ、涙を流してくれていたほうがいい。我慢している顔が、なおさら辛いです。
こんなに心を揺さぶられる写真があるでしょうか。戦争は絶対にダメだと、如実に語っています。誰がこの子に、こんな思いをさせたのよ。なぜこんな年の子が、火葬場に並んでいるのか。お父さんは、お母さんはどうしたのだろう。戦争のあと、どうやって生きたのか。
この男の子が誰なのか、多くの人が探しました。撮られたのが長崎のどこで、足元に写っている電線は何の電線か。探したけれど、見つからないそうです。終戦の年に十歳だったとすれば、いま八十五歳。どこかで生きていらっしゃるなら、私もお会いしてみたい。でも名乗り出ると、心の傷が開いてしまうのかもしれませんね。
私も昭和八年生まれですから、戦争を体験しています。家のあった横浜に父だけ残して、祖母と母、長女の私、弟、二人の妹とで、縁故疎開しました。群馬県の高崎、そこからさらに富岡へ。
その富岡で、下の妹が死にました。食べる物がなくて、どこかでご馳走になった牡丹杏(スモモの一種)か何かに当たってしまったんです。まだ五歳でした。キューピーさんみたいに髪の毛がクルッとしていて、きょうだいで一番可愛い顔をしている子でした。