戦前から戦後の貴重な白黒写真355枚を最新のAI技術と、当事者への取材や資料をもとに人の手で彩色。カラー化することにより当時の暮らしを蘇らせた『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)が話題になっている。
7月の発売前から予約が殺到、累計40,000部(5刷)
共著者である渡邉英徳氏(東京大学大学院情報学環教授)が本書に込めた思いとは?(※本記事では本書より1945年の写真を掲載する)。
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本書には、「カラー化された」戦前から戦後にかけての写真が収録されています。
当時の写真は、もっぱらモノクロです。カラーの写真に眼が慣れた私たちは、無機質で静止した「凍りついた」印象を、白黒の写真から受けます。このことが、戦争と私たちの距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っていないでしょうか?
この「問い」から、カラー化の取り組みがはじまりました。私たちはいま、AI(人工知能)とヒトのコラボレーションによって写真をカラー化し、対話の場を生み出す「記憶の解凍」プロジェクト[1][2]に取り組んでいます。
カラー化によって、白黒の世界で「凍りついて」いた過去の時が「流れ」はじめ、遠いむかしの戦争が、いまの日常と地続きになります。そして、たとえば当時の世相・文化・生活のようすなど、写し込まれたできごとにまつわる、ゆたかな対話が生みだされます。
私は、情報デザインとデジタルアーカイブによる「記憶の継承」のあり方について研究しています。これまでに「ナガサキ・アーカイブ[3]」「ヒロシマ・アーカイブ[4]」などを制作してきました。そして、2016年からモノクロ写真のカラー化と、SNSへの投稿を始めました。
「記憶の解凍」プロジェクトは、2017年、広島の高校生だった共著者、庭田杏珠さんとの出会いから始まりました。「ヒロシマ・アーカイブ」の証言収録など、平和活動に積極的に取り組んでいた庭田さんに、自動カラー化の技術を教えたのです。
庭田さんは、現在は広島平和記念公園となっている「中島地区」に着目しました。かつてそこにお住まいで、原爆投下によりすべての家族をうしなった濵井德三さんとの交歓とカラー化技術が、庭田さんのなかで結びつきました。
いまは「公園」となった場所は、かつての「繁華街」だったこと。そこにあった平和な暮らしが、一発の原子爆弾によって永遠に失われてしまったこと。こうした事実から、平和の大切さを多くの人に感じてもらいたい。
この庭田さんの想い、そしてカラー化写真から生まれた「対話」でよみがえった、濵井さんの記憶。そのようすを目の当たりにしたとき、「記憶の解凍」ということばが降りてきました。現在、私たちは共同で、この活動に取り組んでいます。
この写真集『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』は、進行中の活動のうち、2020年春までの成果をまとめたものです。
「AIは衣服・乗り物が苦手」
「記憶の解凍」は、AIとヒトとのコラボレーションです。