「本日の新規感染者数は――」。新型コロナウイルスの感染者数の発表は、すっかり“新しい日常”の定番イベントとなった。毎日、しかも都道府県ごとに、各メディアが一斉に報じるので、どうしても注目され、話題になってしまう。
当局の数字に一喜一憂させられる様子は、戦時中の大本営発表をめぐる状況に似ているとの声もある。筆者は以前、1000件近い大本営発表のすべてを調査したが(『大本営発表』幻冬舎新書)、戦後75年の今日、あらためて戦前と現在の比較をしてみたい。
果たして、“コロナ報道”と大本営発表は同じなのか、それとも違うのか。
〈どこの国でもやっている戦時報道〉ではない
はじめに、大本営発表とは何だったのかを確認しておこう。
大本営発表とは、日中戦争から太平洋戦争にかけて、日本軍の最高司令部である大本営によって行われた戦況発表のことをいう。その内容があまりにデタラメだったことから、今日では、「あてにならない当局の発表」の代名詞ともなっている。
事実、戦艦撃沈の戦果は4隻から43隻に、空母撃沈の戦果は11隻から84隻に、大幅に水増しされた。前者は10.75倍、後者は約7.6倍である。反対に、戦艦の喪失は8隻が3隻に、空母の喪失は19隻から4隻に、やはり大幅に圧縮された。
ここに補助艦艇、輸送船、航空機、地上部隊などの戦果や損害も含めれば、数字の誇張や隠蔽は、さらに途方もないものとなる。
このような集計からいえるのは、大本営発表が〈どこの国でもやっている戦時報道〉ではなかった、ということだ。たしかにアメリカも、存在しない戦艦「ヒラヌマ」を撃沈したなどとの発表を行っていた。だが、さすがにここまで現実離れした内容ではなかった。