暴力団辞めたら即カタギ、とは簡単にいかないワケ
人間は社会的動物です。この世に生を享け、最初に社会化(*1)されるのは家族社会です。この家族社会から躓くと、その後の人生は危ういものになります。手段の合法・非合法にかかわらず、生き抜くことしか考えません。筆者がこれまでに話を聞いた、13人の元暴や現役暴力団員の人たちの家庭環境も大同小異でした。彼らは、子ども時代から非合法的な社会の文化に親しんでいたといえます。子どもの頃にはコトの善悪は分かりませんから、そうした非合法な文化における価値観に染まるのは、彼らの責任だけではないと思うのです。
*1 社会化とは、人が社会規範への同調を習得する過程であり、社会の存続を可能にし、世代間の文化の伝達を可能にする過程をあらわす。
自分自身、義務教育を父親の判断で殆ど受けられず、家庭内で日常的に暴力を受け、反発し、非行的な文化に染まった後に、そこからやっとのことで抜け出した筆者は、この主張には力をこめたいと思います。
我々が常識と考えることは、暴力団の世界では非常識であり、またその逆も然りかもしれません。いずれにしても、暴力団をはじめとする非合法な社会の文化から立ち直ることは、非常に困難を伴うものであり、社会全体の支援なしには難しいというのが筆者の考えです。
カタギに転向する際の文化的な葛藤
筆者が取材現場で見てきた暴力団真正離脱者の多くは、正業に就き更生するまでの間、合法と非合法の社会をドリフトするようにして、徐々に社会復帰しています。彼らもまた成長過程で、非合法な文化において社会化されてきました。そして、暴力団に加入し、暴力団の文化の中で暴力や脅しが日常的で、犯罪的な生活を送ってきています。このような犯罪組織における文化を、犯罪学では「非行副次文化」あるいは「非行サブカルチャー」といいます。
暴力団社会の文化とカタギ社会の文化とでは、基本的に様々な違いがありますから、カタギ転向する際、離脱者は文化的な葛藤を経験します。それはたとえば、日常的な言葉遣いや態度、習慣というものから、感情の表出の仕方などです。ですから、「今日から足を洗って犯罪とは無縁のカタギになります」と言っても、いきなり別の人間になれるわけではなく、カタギ文化に受け入れられ、そこに馴染むよう努力することで、徐々に立ち居振る舞いが変わっていくものなのです。
筆者が見る限り、社会復帰に成功している人は、地域社会に支えてくれる人がいた場合、あるいは、慣習的な社会に居場所などを持ちえた人でした。社会的に孤立した人、職場などのイジメに耐えられなかった人は、更生に至らず、再犯で逮捕されるか、元の組織に戻っています。
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