最大時約18万4000人を数えた暴力団構成員数は現在約2万8000人。取り締まりは年々厳しくなっており、彼らは真っ当な暮らしを送ることも困難になっている。そんな状況にもかかわらず、どうして暴力団に加入する人が絶えることはないのだろうか。

 ここでは、暴力団についての著書を多数出版している廣末登氏による『だからヤクザを辞められない 裏社会メルトダウン』(新潮新書)を引用。暴力団に加入した男性の具体的な事例を紐解き、加入を決めた理由、そして脱退する難しさについて紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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生まれた時から背負う社会的ハンデとは

 人は生まれてくる家を選ぶことはできません。ですから、家庭環境や貧困など生来的なハンデは、それが遠因で暴力団員になった人たちにとってどうしようもなかったことであり、同情の余地があると考えます。もっとも、不幸な家庭に生まれても非行や犯罪に走らない人もいます。だから「それだって、自己責任なんだよ」と仰るむきがあることも承知しています。しかし、不幸にも濃淡、強弱、割合というものがあります。筆者が聴取した暴力団離脱者の中には、成育環境が不幸の一言で片付けられるレベルではない人もいました。我々が当たり前に享受してきた少年時代の生活が、彼らには望めなかったのです。

 公的調査・研究では、暴力団組織への加入につき、家庭環境や地域社会からの社会的孤立が個人を暴力団へ押し込むプッシュ要因であり、暴力団組織所属者とのつながりや交友関係が、個人を暴力団へ引き込むプル要因となっていると分析しています。

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 なぜなら、構成員の暴力団への加入理由を最終学歴別にみたとき、特に中学校卒業者で「暴力団以外に居場所がなかったから」63.9%、高等学校中退者で「信じられる人が暴力団にいたから」32.4%と高い割合を示しており、家庭にも地域社会にも居場所がなかった暴力団加入者の状況が見て取れます。ちなみに、暴力団加入検討時に暴力団以外に「信じられる人がいなかった」とする人の多くが「経済的に苦しかった」ことも加入理由にしています。

 この分析は、次項に紹介する人物たちの半生をみても肯定できるものです。

 子ども時代の家庭の貧困、親からの放置や虐待が自己責任でしょうか。子どもには重すぎる何かを背負って生まれてきた境遇が自己責任と非難されるべきでしょうか。筆者が考えるに、陽光あふれる船のデッキしか知らない人には、薄暗い船底に木霊する重たい軋みは、想像できないと思います。その重く暗い軋みとはどのようなものなのか──